超いびつな6月相場と年後半のインフレリスク

2024年7月3日

マーケットアナリスト大山です。今週もよろしくお願い致します。

ここまでのマーケットの振り返り

7月相場がスタートしたところですが、2024年上半期と6月相場を振り返ってみたいと思います。
先ず1-6月の米株(S&P500株価指数)パフォーマンスを確認すると+14.48%です。
グローバルの主要指標と比較すると、SOX指数(フィラデルフィア半導体指数)が昨年末比31%超上昇してトップパフォーマンス。次いで台湾市場が28%超上昇。そしてTOPIX・日経平均・NASDAQ株価指数が揃って18%超上昇し、S&P500株価指数が続いています。
6月単月で米株パフォーマンスを確認すると+3.47%でした。5月+4.8%に続き、6月相場も順調そうに見えます・・・が、米国株は記録的な一極集中が進んだ月になったようです。株価指数はエヌビディア株に過度に依存した格好で、6月は上昇分の3分の1を同銘柄が占めます。
エヌビディア<NVDA>、マイクロソフト<MSFT>、アマゾン<AMZN>、メタ<META>、アップル<AAPL>の僅か5銘柄が年初来上昇の60%を占め、エヌビディアだけで全体の31%を占めます。上昇銘柄の幅の狭さに懸念の声は高く、WSJ紙は『S&P500指数がエヌビディア主導で最高値の更新を続ける一方、重要度の低い銘柄は値下がり。それぞれの最高値を大幅に下回る水準にとどまるという「二分化」が起きている』という風に警戒を強めています。

月間パフォーマンスを見ると、S&P500指数を上回ったのは、大型ハイテク株が属する情報技術、一般消費財サービス、コミュニケーションサービス(情報通信)の3セクターのみ。その他のセクターは指数に勝てないどころか、殆どのセクターがマイナスのパフォーマンスでした。また、規模別/種類別指数で見ると、プラスのパフォーマンスとなったのは、大型グロース株指数のみで、その他は全てマイナスに沈んでいます。
小型株で構成するラッセル2000指数は現在、2021年11月に付けた最高値を17%下回り、今年に入ってからは全く伸びていません(昨年末比+1.02%)。

このように、値上がり銘柄が絞られた結果、“多くの銘柄が幅広く上昇すれば上げ相場の持続力が増す”と考える市場関係者の間で懸念が生じています。
つまり、株価を動かしている要因は(株価上昇の要因は)人工知能AI向け半導体の需要で、結果的にエヌビディアなどのひと握りの銘柄が市場全体を最高値に押し上げたのです(エヌビディアは一時、時価総額世界一になりました)。
しかしこの状況は、物色が横に広がらなければ、かなり危ういのではないでしょうか?
市場がエヌビディアというたった一つの銘柄に”過度に”依存しているのです。エヌビディアは6月20日に下落するまで、S&P500株価指数の今月の上昇分の3分の1を、2022年初め以降では上昇分の約45%を占めていました。半導体需要が鈍化する、AIの誇大広告が現実に直面する、既に誰もがエヌビディア株を保有している・・・などの理由で、エヌビディアの勢いが止まれば、ほかの銘柄に頼ることになるのですが、悲しいかな、他の銘柄は(堅調さでは)エヌビディアに及ばない可能性が大です・・・。

もちろんエヌビディアが失速すれば、誰かが(他の銘柄が)”主役”に抜擢される可能性はあるのですが、エヌビディアが不調なら、AI期待で上昇したエヌビディアの“仲間たち”の株価も失速するので、株価指数の浮沈はハイテク株以外の銘柄に係っているのではないか?と思うのです。つまり、時価総額の大きいNYダウ30種平均採用の景気敏感株次第ということになりそう・・・と考えています。

7月中旬以降は4-6月期企業決算発表を控えていますが、出遅れていたITソフトウエア企業の株価(アドビ<ADBE>、オラクル<ORCL>など)や物流のフェデックス<FDX>の様に、決算発表を通じて思ったよりも良かったということになれば少し雰囲気が変わってくるかもしれません。
フェデックスは決算が市場予想以上に良かったことに加え、リストラを通じた利益の捻出と自社株買いの合わせ技が評価されて株価が戻ったとみられています。引き続き企業の自助努力は株価上昇のドライバーになると考えて良さそうです。

年後半は金利リスクに注目
もしトラ►ほぼトラ►やばトラ リスクへ

ここまで、エヌビディアリスクと処方箋(景気敏感株のパフォーマンス次第)を考えてみましたが、米国株を動かした要因は上記に加えて米国経済と金利を巡る懸念があると考えています。米国の経済成長が鈍化し始めた一方で、FRBがインフレ警戒姿勢を崩していないことが背景ですが、結果的に多くの銘柄の株価を押し下げることになりました。しかし直近では、単月ではありますが複数の経済データで景気の減速・インフレ率の低下が確認されていますので、9月FOMCにかけて発表される経済データを確認することで、複数の月に跨って景気減速・インフレ率低下を見ることができれば徐々に解消されるのではないかと考えています。

日本時間6月28日午前10時から米大統領選を控えた候補者二人バイデンさんとトランプさんによる「第1回大統領候補テレビ討論会」が行われました。
4年前は見るに堪えない老人同士の口喧嘩と揶揄されたイベントですが、今回の討論会はルールが設けられ、無観客でメモなどの持ち込みも禁止され、討論会会場では水とペンと紙を渡されて会場に持参するだけ。討論はテレビCMを2回挟み、1時間半の間ぶっ続け。

この討論会は、次期大統領として4年の任期を「バイデン」が全うできるのかどうかをWH(ホワイトハウス)が試すイベントでした。バイデン陣営にとってはある意味「崖っぷち状態」で迎えた第1回大統領候補討論会。なんと、ここでまさかの悲劇が起きてしまったのです。
結果は各メディアが伝えている通り、バイデン大統領が苦戦と報じられ、「トランプ政権誕生」に向かいつつあります。
TIME誌の表紙が秀逸で、「Panic」という一つの単語で民主党の苦悩を表現しています。
ここから民主党の候補者の差し替えが可能なのかどうか(大前提はバイデンの「断念」が前提になりますが、SWAPとかHot Swap等と言うみたいです)、誰に変わるのかで勝敗が大きく動きそうです。
バイデンが身を引いた場合、カマラ・ハリス副大統領(59)が後継と目されますが、世論や党内の支持はバイデン氏よりも低い。「ポスト・バイデン」に意欲を見せてきた西部カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事(56)、中西部ミシガン州のグレッチェン・ウィットマー知事(52)、ピート・ブティジェッジ運輸長官(42)らが次々と名乗りを上げる可能性があり、ここは本人はやる気がないそぶりを見せていますが、ミシェル・オバマという声も出てきました。
民主党は候補者を替えて後悔するのか、替えずに後悔するのか。さぁどうなるでしょう。

米メディアのポリティコによれば、民主党の下院議員の一人は「出馬を断念するよう説得する動きは本物だ」と明言。ただし党幹部の多くは「説得は難しい」と考えているみたいで(バイデンのプライドが高すぎる)、ある民主党の州知事は「討論会はひどすぎた」としつつ、候補者を代えるには「遅すぎる」との見方を示しました。
6月30日、ポリティコはJoe must Go(バイデン、辞めろ)とメッセージを送っています。

このように、このままなら再びトランプさんが復権し、共和党主導で動くことになります。
もしトラは、トランプやばい「やばトラ」リスクになりそうなので、ここではトランプリスクを考えてみます。
トランプさんの基本方針は米国第一主義が基本です。
再選される場合、関税引き上げ、移民規制などが実施され、保護主義によりサプライチェーンが再び分断され成長力が低下し、サプライチェーンの再構築ができずインフレが強まるリスクがありそうです。
またトランプ減税が延長され、財政赤字が拡大して、長期金利が上昇するリスクがあります。
個人的には、トランプ減税延長の影響が大きいと考えていて、税負担が富裕層から低所得者層へ移るかたちになり、所得格差が一段と拡大するリスクが大きそう。
またトランプ氏は不法移民だけでなく、合法的な移民についても規制を強化する方針で、移民規制の厳格化で労働供給不足は高インフレを招くことにも注意すべきです。

欧州議会の右極化もあり、保護主義・財政悪化・金利上昇のリスク、欧米の金利上昇リスクが、年後半の一番のポイントになるのではないかと考えています。

大山季之

大山 季之(おおやま のりゆき)

松井証券マーケットアナリスト
経験から得た幅広いネットワークと確かな知識で複雑な世界情勢を紐解き分かりやすく解説

<略歴>
1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。

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