利下げの時が来た、FRBの最初の利下げ幅と 緩和の道筋が焦点

2024年8月28日

マーケットアナリスト大山です。今週もよろしくお願い致します。
今週は、
■ ジャクソンホール会議:FRBパウエル議長が述べた「決意」とは・・・
■ 市場は 利下げ「幅」を知りたい
■ 今後の投資戦略は? についてお話ししようと思います。

ジャクソンホール会議:FRBパウエル議長が述べた「決意」とは・・・

今年のジャクソンホール会議も終わってみたらビッグイベントになっていました。FRBパウエル議長はジャクソンホールで開かれているシンポジウムで講演し、こう述べています。
-The time has come for policy to adjust.
『金融政策を調整するときが来た』。
とうとう、約4年半ぶりに金融政策を転換し、利下げに向かうことを示唆しました。この一文に続き、
-The direction of travel is clear, and the timing and pace of rate cuts will depend on incoming data, the evolving outlook, and the balance of risks.
『その方向性は明確で、利下げのタイミングとペース(利下げ幅)は、今後入手するデータ・変動する見通し・リスクバランス次第・・・』とも言いました。まぁいつもの“パウエル節”と同じで、利下げへ向かうという“方向感”は鮮明になった、しかしいつから利下げを行うのか?何%の利下げを行うのか?については経済データ次第だよというのです。

-We do not seek or welcome further cooling in labor market conditions. 
We will do everything we can to support a strong labor market as we make further progress toward price stability.
加えて、『我々(FRB)が労働市場の状況がさらに冷え込むことを求めておらず、歓迎もしていない。
FRBは、物価安定に向けて、力強い労働市場を支えるために全力を尽くす』と述べましたが、市場は、全力を尽くす≒何でもする≒思い切った利下げも躊躇せずにやる⇒0.5%の利下げもあり得ると解釈したようです。
上記文章の後で、さらにこの様に補足しています(中央銀行文学は時々理解し難い表現をします)。
-The current level of our policy rate gives us ample room to respond to any risks we may face, including the risk of unwelcome further weakening in labor market conditions.
今回パウエル議長は、『労働市場が好ましくない弱まり方をする事なしに政策対応を行う十分な余地が今の金利水準にあります』と述べています。つまり、利下げする気満々だという事が理解できます。

このように、かなり強めのメッセージが発信されたことで、8月23日のマーケットは株高・金利低下・ドル安、リスクオンで反応しています。為替はドルがほぼ全面安の展開で、ドル/円は週明けの東京市場で143円台に突っ込み、円高を嫌って日本株は先週末比マイナスでスタートしています。
日本株に関しては急速な円高・株安の連鎖が再び強まるのかどうかが焦点で、今しばらくは米国経済統計が日本のマーケットを揺さぶる展開が続くことになりそうです。

市場は利下げ「幅」を知りたい

近いうちに利下げが行われる・・・という最も強いシグナルが発信されていますが、先週21日に公表された7月FOMCの議事録にヒントが有りました。9月利下げについて多くの参加者が支持していることが明らかとなっており、こうした金融当局高官らの意見が今回補強された形になっており、利下げを行う理由も明確になってきたと考えています。
FRBの2つの責務は物価の安定と雇用の最大化ですが、いま足元では失業率が1年前の3.4%という極めて低い水準から上昇し、7月時点で3年ぶりの4.3%に達しています。この水準は6月に示された金融当局の2024年末、25年末、26年末の予測値を上回っており、当局から「雇用市場の一部からは懸念すべき警告が出ている(シカゴ連銀 グールズビー総裁)」といったコメントも出ています。
雇用者数、求人数など、労働市場の他の指標も軟化しつつあり、エコノミストの中から『FRBはこれ以上の失業率の上昇を容認しないだろう』という意見も出ています。
これまでの失業率の上昇は、景気低迷時にある一時解雇(レイオフ)の増加によるものではないとパウエル議長は説明しましたが(ハリケーン襲来による天候理由、移民増加による労働参加率上昇に伴う失業率上昇)、これはもう少し後になってみないと分かりません。

さきほど、パウエル議長のコメント『力強い労働市場を支えるために全力を尽くす』という一文を紹介しましたが、全力を尽くす≒利下げを躊躇せずにやる・・・0.5%の利下げもあり得ると市場が理解していますが、実際はどうなるのでしょうか。
いずれにしても、FRBは雇用水準を高く維持するためにあらゆる手段を講じると誓いました。
本当に1回の利下げ幅が0.25%で足りるのか?
年内0.25%の利下げx3回=0.75%の利下げで足りるのか?
ジャクソンホール会議の直前のタイミングで、複数の金融当局高官らが『利下げは整然と・・・』と述べています。これは『願い』『願望』です。祈りが通じるほど市場は甘くないことはみんな分かっています。そうは言っても、利下げできる余地があるというのがアメリカのいいところではないかと思ったりしています。

利下げのペースを市場がどう考えているのかみてみると、CME FedWatchでは、年末までのFOMC3会合1%以上の利下げ確率76.2%まで上昇しています(2024/8/26 08:30時点)。市場参加者は、何処かで1回は0.5%の利下げが来ると予想しています。実際に0.5%利下げが起きた時の市場のリアクション 受け止め方は景気・マーケットの次第だと思いますが、いまのところは23日の市場のように、好意的にとらえても良いのではないかと考えています。

今後の投資戦略

ここでは8月23日に上昇したS&P500 セクター別騰落率を確認してみます。

セクター別騰落率

<出所:Bloombergをもとに松井証券作成 2024/8/23 日次データ>

23日のS&P500株価指数は+1.15%でしたが、上記のような成績になっています。
金利低下で消費が伸びる、恩恵が受けられるような業種が並び、利下げを行う事で景気のソフトランディングが可能になることを見ているようです。
家具・自動車・家電・航空会社・半導体・住宅セクターが好パフォームしています。金融政策は効果が表れるまで時間差がありますが、失業率が上昇する前に先んじて金利を引き下げて労働市場の軟化に備えようとしている・・・このことを市場はすぐに織り込みに行ったというわけです。
利下げが遅れて労働市場が悪化し、個人消費が減速、景気が失速するとは考えていないようにも見えます。
この市場の見方が正しいのであれば、金利低下を素直に受け止めることができる消費財、ハイテク、そして素材などの景気敏感株にも注目しても良いかもしれません。

この局面、プロの運用担当者(機関投資家 ファンドマネージャー)はどのような個別株でリスクをとっているのか?を見てみたいと思います。
たとえば、松井証券取り扱いの投資信託の中で「集中」と名の付く公募投信を調べると、【GS米国成長株集中投資ファンド】があります。

このファンドは、成長銘柄へ集中投資をするコンセプトで運用が行われており、企業分析をもとにボトムアップ手法により銘柄選択を行い、15から20銘柄程度に厳選された銘柄でポートフォリオが構築されている投資信託になります。

相場の乱高下が始まる直前、7月末時点の上位組み入れ銘柄はこのようになっています。
ランキング上位10社は上から順に アルファベット、イーライリリー、マスターカード、マーベル・テクノロジー、テキサス・インスツルメンツ、インテュイット、シャーウィン・ウィリアムズ、オールド・ドミニオン・フレイト・ライン、アドビ、ボストン・サイエンティフィック であり7月末組み入れ銘柄数は17社、上位10社で約66%を占めます。
この10社の株価を7月末の終値と比べてみるとファンドのパフォーマンスに貢献した銘柄は
イーライリリー +18.46%
マーベル・テクノロジー +7.26%
ボストン・サイエンティフィック +7.16% であることが分かります。
これらの銘柄が今後も続けてパフォーマンスに貢献してくれるかどうかは不透明ですが、少なくとも、7月末時点で彼らはこのような銘柄でリスクを取り、結果を出していたということは投資の参考になるのかもしれません。

大山季之

大山 季之(おおやま のりゆき)

松井証券マーケットアナリスト
経験から得た幅広いネットワークと確かな知識で複雑な世界情勢を紐解き分かりやすく解説

<略歴>
1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。

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