銀行株決算、セブン&アイ・ホールディングス決算、テスラの発表会に思う事
10/7-10/11 先週の振り返り
主力企業の決算発表が好感され、S&P500株価指数・NYダウは揃って史上最高値を更新。S&P500は初の5,800ポイント台に乗せてきました。個別株は好決算とともに、通期の純金利収入見通しを引き上げた JPモルガン チェース<JPM>など金融セクターが指数をけん引しています。
週を通じてイベント・金融当局高官発言が多く、金利・原油価格などが大きく動いた週でもありました。
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原油価格は10/7に中東情勢や大型ハリケーンを受けて大きく上昇しています。
(その後、週明け10/14にOPECが3か月連続となる石油需要見通しの引き下げ、イスラエルがイランの石油関連施設を攻撃しない旨が報じられ、大きく下落しています。) -
10/9 9月FOMC議事要旨が公表されています。
利下げ幅巡り活発な議論が交わされ、大幅利下げに異論もあったと知りました。議事録によると、「幾人かの参加者は、0.25%利下げが政策正常化の漸進的な道筋に沿ったものだと指摘し・・・」と記載がありました。9月FOMCではFRBボウマン理事だけが0.5%の大幅利下げに反対していますが、そのほかにも反対しようとしていた当局の高官がいたようです。 -
10/10、消費者物価指数CPIがアナウンスされ、“市場予想通り”上振れています。
シカゴ連銀グールズビー総裁は発表されたCPIが市場予想を上回ったことについて「過度に懸念していない」と発言したことから買い安心感が広がっています。
10/11 投資銀行決算:JPモルガン チェース<JPM>、ウエルズ ファーゴ<WFC>
予想外に凄く良い決算が発表されたと思います。ここまでは同業のジェフリーズ6-8月期決算で発表されている通り、投資銀行事業は好調という“読み”がありましたが、JPMの決算を見ると、一般企業の売上に相当する純営業収益は7%増の426億5400万ドル、1株当たり利益(EPS)は4.37ドル、純営業収益とEPSはともに市場予想を上回る結果を示しました。10/11の株価は前日比4.4%上昇、NYダウ30種平均の構成銘柄で上昇率トップになっています。
NIIと呼ばれる純金利収入は3%増の234億ドル、預金などの調達金利と融資などで稼ぐ金利差(利ざや)は期中平均で2.58%と0.14ポイント縮小しましたが、融資残高の増加で補った格好です。
今後は金利が低下する局面に入りますが、融資の稼ぐ力は強いと言えます。
決算を受けてCFOは「今回の決算は経済のソフトランディングと似ている、ゴルディロックス経済状況と一致している」とコメントしています。
消費支出をJPM決算から見ていくと、カード支出の伸びが鈍化、カード支払いの延滞が増加していると報告されています。例えば、JPMのカードサービス売上高(商業カードを除く)は、前年比7%弱の増加ですが、4-6月期は8%近く、1-3月期は9%以上の伸び。表面的には、経済活動が緩やかではあっても減速しつつある兆候のように思えるのです。
ウエルズファーゴ 財務マネジメントCFOは、消費支出の伸びに関しては低下するとして、過去数年間のインフレ高騰の結果、低所得者層の消費が依然として「最も苦しい状況下にある」と指摘しています。
(CFOはアナリストらに対し、「インフレの鈍化と金利の緩和開始の恩恵はすべての顧客、特に低所得層の顧客にとって有益となるはずだ」と語っています)
金曜はJPMの決算発表を受けて金融セクターではゴールドマンサックス<GS>が2.5%上昇し最高値を更新、月曜も1.25%上昇しています。バンクオブアメリカ
米セブンイレブンのリストラ・・・稼ぎ頭の米コンビニ事業の変化
次に、アメリカの消費支出にフォーカスして、日本のセブン&アイ・ホールディングス<3382>決算の海外コンビニエンスストア事業(米セブンイレブン事業)を見ていこうと思います。
公表された2024年3-8月期決算は稼ぐ力が低下し、業績を下方修正しています。特に前期まで稼ぎ頭だった海外コンビニ事業(米セブンイレブン)の営業利益は25年2月期に前期比3割減益になる見通しです。米国で中低所得者向けに圧倒的に支持されてきましたが販売が振るわず、不採算店444店を閉鎖するリストラ策を開示しています。
会社のコメントが参考になります。
- インフレ進⾏に伴う家計⽀出の増加、コロナ禍における政府の各種⽀援策が終了し、消費者の消費マインドが変わり、よりバリューを求めてディスカウントストアに客が流れた
- この動きに対して、原価上昇・コスト上昇を価格に転嫁せず、客数増を企図したものの、想定通りの効果をあげられず、荒利率が低下
- 外部環境はインフレが⼤きな課題。インフレ率は2020年以降、累積で21%以上上昇、家賃、光熱費、燃料費、⾷料品などの主要な⽣活費は25%以上上昇している。⽶国の家計は2019年から17,000ドル近く出費が増えたと推定されます。これは、中低所得者の家計を⼤きく圧迫し、多くの消費者がディスカウントを求め、価値を⾒出すため購買行動を変化させ、より多くのPB商品を選択するようになっている
この辺り、特に中低所得者層の消費の変化という観点では、上述のウエルズファーゴのCFOコメント、米ディスカウントチェーン業績が低所得者層の消費減速を受けて落ち込んでいる点と辻褄が合います。
港湾ストライキとテスラのアンドロイド
前回のコラムですこしだけ港湾ストライキについてお話ししました(1/15までストは中断されている)。
スト終結に向けては労使が新たな労働協約を締結できるかが焦点で、経営側は6年間で62%の賃上げを提示し、基本時給を現在の39ドル(約5700円)から63ドルに引き上げると提案、労使が暫定合意しています。労働者側は77%(69ドル)の賃上げを求めていました。
賃金と並んで交渉の焦点となっていた港湾の自動化技術の導入については、対立が続き交渉は中断。
港湾労働者の方たちの給与は63ドル!なんと!もの凄いです。
時給63ドルで毎日10時間(8時間労働+2時間の残業)、週5日働くとします。この場合、年俸はいくらになると思いますか?電卓で計算すればすぐにわかります。
63ドルx10時間x5日間x4週間=月収は12,600ドルです。2か月で約15万ドルです。米ドル/円150円換算で年収2250万円です・・・。
一方で、テスラ「We, Robot」でお披露目されたアンドロイド(人型ロボット:オプティマス)は、一体2-3万ドルで売り出すと言われています。
港湾労働者のように文句を言わず、パワハラ・カスハラにも耐え、黙々と24時間働くことができるアンドロイドは3万ドルで購入が可能です。仮に、1回の充電で8時間動くことを想定して、1日24時間を3体のアンドロイドで回すとしても3万ドルx3=9万ドルのコストです。9万ドルvs 一人15万ドルのコスト。こんなことを考えると、近い将来、働く現場の風景が大きく変わりそうな気がしています。
本件、面白いことに港湾の自動化技術の導入に労働者の皆さんは反対しています。ロボットに仕事が奪われる未来が、労働者には見えているのでしょうか・・・。(闇は深い?)
大山 季之(おおやま のりゆき)
松井証券マーケットアナリスト
経験から得た幅広いネットワークと確かな知識で複雑な世界情勢を紐解き分かりやすく解説
<略歴>
1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。