相場をけん引したのは金融セクター。トランプ2.0のワーストシナリオは一体?
2025年1月22日
マーケットアナリスト大山です。今週もよろしくお願いします。
今週は注目されるような経済統計が無く、1月FOMCを控えて沈黙期間(ブラックアウト期間)に入ったため金融当局高官の発言機会はありません。注目イベントは20日(月)トランプ政権発足と日米の個別企業決算発表になります。
個別企業決算では、先週16日に開示された半導体受託生産の世界最大手である、台湾TSMCが印象的でした。毎月「月次売上」を開示している企業なので決算でサプライズが起きにくい企業ですが、市場予想を上回る25年1-3月期の売上高見通しと25年の設備投資見通しを示し、米ハイテク企業の決算にも期待が持てそうだと感じました。今後、月末に向けてハイテク大手企業の決算開示が続きますが、事前予想を上回るようなハイテク決算が出せれば、市場全体、一気に高値奪還が見えてくると感じました。
相場の流れを作ったのは 金融セクターの決算発表だった
私は米大手金融機関の決算発表が相場の流れを作ったのではないか?と感じましたし、市場参加者は大手行の『稼ぐ力』を存分に見せつけられた格好になったのではないでしょうか。
JPモルガン<JPM>、ゴールドマン サックス<GS>、ウェルズファーゴ<WFC>、モルガン スタンレー<MS>、シティ<C>、バンクオブアメリカ<BAC>など、大手行6社はいずれも最終損益を確保し、総じて好調だったのです。最大手のJPモルガンは2年連続で最高益を更新する結果で、主に融資業務から得る純金利収入が伸びたほか、投資銀行ビジネスの手数料収入も拡大し、好調さが際立っています。
各銀行のビジネスモデルは全く違いますが、JPモルガンの2年連続最高益更新、これが投資家にとって何を意味するのか?を少し考えてみたいと思います。
JPモルガンのみならず、銀行・投資銀行ビジネスは総じて好調です(絶好調です)。ビジネスの根幹である預貸の利ザヤは改善していること、今後は更に預金コストが低下してくること、トランプ2.0新政権下での銀行規制の緩和、ならびに“ビジネスフレンドリー”な環境が敷かれること等で銀行業務がさらに伸びる(特に顧客企業の活動が活発化することで投資銀行業務が伸び、手数料収入アップが期待できます)ことで、金融産業は引き続き好調さを維持できるのではないか?と多くの投資家が考えたと思います。
今後、トランプ2.0において、事業が好調で収益が伸び、さらに規制緩和によって有事に備えて過度に資本を準備する必要が無いのであれば、配当や自社株買いを通じて余剰資本を配分したいと考えるのは必須…という連想が働きそうです。個人的にはそのように映りました。
(ブルームバーグ集計データでは、米銀大手6行が行った2024年の株主還元の規模は1,000億ドルを超え、2021年以来の高水準になった模様ですが、今年は更に期待できるとしています。)
実際、シティは決算発表に合わせて今後数年で200億ドル規模の自社株買いを行うことを発表し、これまでリスク管理とマネジメントへの投資に振り向けていた資金を、ようやく投資家の期待に応えるべく株主還元に向けると開示してきました。大手行の中で最も自社株買いが少なかった銀行が変化しているのです。
同様に、JPモルガンは余剰資本が十分にあることを示したうえで、「これ以上資本を増やしたくない」とのことで「自社株買いによる資本還元が増えることになるだろうが、これが当社の計画だ」と財務のトップが言い放ちました。GSも「従来とは違うアプローチを想定している」として、含みを持たせています。
また、CNBCはJPモルガンに関して、既に規制当局の要求を満たす以上に約350億ドルの株主還元に向けられるべきマネーがあり、これを「余剰資本」と呼び、自社株買いによる資本還元が増えるのではないかと伝えていました。
このように、業績が好調で規制緩和が行われれば、従来以上に株主に還すことができる余剰な資本が見えてくる…ということで、外堀がだんだん埋まってきたと感じます。
以前、JPモルガンのダイモンCEOは、自社株買いに関して「高値で推移する株式を大量の自社株買いで対応するつもりはない」と言い放っているのですが、この発言以降も株価は上昇を続けているので、この実行力・胆力が試されてくるのではないかと考えています。
トランプ2.0始動!最悪の最悪、ワーストシナリオは何か?
このように足元は企業収益が好調で、インフレは落ち着き、労働市場は完全雇用に近く、失業率は依然低水準で維持されていて、ここまで米国の経済成長 実質GDP成長率は、金融当局の想定する潜在成長率(約2%水準)を大きく上回る3.0%近辺で推移しています。
つまり、経済環境が非常に良い状態でトランプさんは2期目をロケットスタートさせることができる!というわけです。
しかし死角は多いのです。トランプ政権の原則は移民対策、貿易不均衡の是正(貿易黒字の大きいところは叩く=関税強化)、国内の製造業を守ることです。貧富の差が拡大し分断が進みましたが、なかでも国内製造業を守るために減税を行い、規制緩和を行うというものです。
関税に関しては 関税強化は冗談ですよね?と言われていますが、今や米国市場で販売基盤を持つ世界の自動車産業はメキシコ抜きで車が作れなくなっていて、自分のところで(米国国内で)作ると一番高くつく、これを誰よりも分かっているのは米国の自動車メーカーであり、従業員です。
だからこそ、世界中にサプライチェーンを敷き、世界中に分業拠点を敷いたのに。
分断と中低所得者層の貧困の問題は、WSJ紙によれば、高学歴で高所得者層だが生活に全く余裕のない人たちのことを“HENRY(High Earners Not Rich Yet)”という言葉で定義し、米国では”HENRY”が大勢誕生しつつあり、消費の息切れリスクと社会に対する不満が高まりつつあると警告をしています。
中低所得者層の困窮に加え、HENRYを救う手立てが関税と移民対策なのか?という話の中で、今後も不満が続けば、政治のキャスティングボードは、未来永劫、彼らが握り続けることになるかもしれないのです。
キャスティングボードを彼らが握り続ける限り、トランプ1.0→トランプ2.0→ネクスト トランプが続くわけで、これが最悪のシナリオだと考えています。
トランプ政権は法改正を行い、3期目があるのか?という話ではなく、今後も常に米国国民が「トランプ的な人」「トランプっぽい人」を望むことになる…これが最悪の事態ではないか、と言う事です。
私は、トランプ2.0は4年で終わるものではないと思っていますし、これを『トランプ3.0 リスク』と呼ぶことにします。
ベストシナリオ | インフレは続くが、アメリカの景気は悪くならない。好景気がしばらく続く。 生産性が向上した3つの理由
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ワーストシナリオ |
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大山 季之(おおやま のりゆき)
松井証券マーケットアナリスト
経験から得た幅広いネットワークと確かな知識で複雑な世界情勢を紐解き分かりやすく解説
<略歴>
1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。