25%・・・やはり冗談だろう?G1時代(ジャイアン時代)の幕開け

2025年2月5日

マーケットアナリスト大山です。今週もよろしくお願いします。
メキシコ・カナダ・中国に対する追加関税のニュースに市場が反応、一喜一憂しています。
現在、グローバルマーケット・経済は事実上、米国というただ一つのエンジンで回っています。この米国経済の例外的な強さが内外の圧力に耐えられるのかどうかが重要な問いになっています。
米国1強の姿はG7(Group7)でもなく、G20でもなく、G1と評されています。G1の関係諸国への振る舞いは「オレかオレ以外か?」。この態度はドラえもんのジャイアン(剛田武くん)のように映ります。ちなみに英語版のドラえもんの中で、ジャイアンはキャラクター名で「Big G」と呼ばれています。
G、まさにぴったりです。誰がジャイアンかって?決まっていますよね・・・。

さて。
1月31日、トランプ政権のレビット報道官は記者会見で、メキシコ・カナダに対する25%の関税(カナダ産原油に限り税率を10%に軽減)、中国に対しても10%の関税を2月1日から追加関税を課すと述べていましたが、土壇場で、カナダ・メキシコに対する関税発動が30日間延期されたという報道が入ってきました。
レビット報道官は記者に対し、2月1日の関税発動回避に向けて3か国ができることは『これ以上ない』と明言していましたが、カナダ:トルドー首相、メキシコ:シェインバウム大統領 ⇔ トランプ大統領との会談を経て、メキシコ・カナダ両国は、合成麻薬フェンタニルや不法移民の流入対策として国家用警備の強化を米国に提案し、トランプ氏が呑んだ格好です。
今後の交渉については「ルビオ国務長官、ベッセント財務長官、ラトニック商務長官(候補)がメキシコの高官と話し合う」と説明、「両国間のディール(取引)に向けた交渉に参加するのを楽しみにしている」と述べています。
(なお日本時間2月4日午前9時現在、米中間の通商は、会談の場が用意されているものの、詳細は不明なままです)

そして、まさに二の矢が打たれようとしている状況ですが、此方は矢を収めることになるのでしょうか。
トランプ大統領はEUからの輸入品に対する関税発動を「近いうちに」開始すると発言していました。対EU関税の発表について予定があるのかメディアが尋ねると「予定があるとは言えないが、かなり近いうちのことだ」と答えています。
なおイギリスを関税の対象にするつもりはあるか?との質問には、「どうなるか様子を見る。そうなる」「もしかしたらそうなる」(自分が本当に懸念しているのはEUとの貿易だとして)「欧州連合とは確実にそうなる」と述べています。
EU首脳らは、米国とEUの貿易戦争で利するのは中国だけだと指摘。「EUと米国は極めて密接に結びついている。米国はわれわれを必要とし、われわれも米国を必要としている」と考えを示しています。

関税は誰が負担するのか?

(・・・たらればですが)関税を引き上げた時、最終的にだれが関税を払うのか?を考えなくてはいけないのですが、この点は未だはっきりとした答えがありません。

関税の仕組み上、相手国政府や企業が直接関税を支払うわけではなく、課税対象は輸入製品なので、米国に入ってきた段階で、米国に登録がある企業が負担します。輸入業者は顧客、つまり米国内のメーカーや消費者向けの販売価格を引き上げることによって関税コストを転嫁しますが、この場合、コストの大半を背負うのは米国の消費者になります。
今回のトランプ追加関税がインフレ的だというのは、この事です。ウォール街は「米国の企業と消費者に対する新たな増税」だと批判を繰り返し、家計の負担を増大させると警告をしています。

また、相手国のサプライヤーに間接的な形でコストがかかるケースもあります。例えばサプライヤー企業が市場シェア維持や取引関係改善・継続を考え、米国の輸入業者が関税の痛みを軽減できるように販売価格の引き下げを提案するかもしれません。また米国の輸入業者が、仕入れ先をより安価で関税がかからない相手に変更すれば、サプライヤー企業は取引を失うかもしれません。

第1次トランプ政権の時は「誰が関税を支払うのか?」を巡って激しい論争が起きました。
誰が負担するのか?という問いの答えはそう簡単ではなく、関税を支払う人が必ずしも負担する訳ではないからです。
関税が単に輸入業者に転嫁されれば、米国の企業や消費者がそれを負担する。
米国の相手国の輸出業者が売上高の落ち込みを避けるため値下げすれば、彼らが負担する。
輸入が他国に移転すれば、誰も関税を払うことはない――しかしながら、貿易相手国の雇用は喪失し、米国人は価格上昇による重荷を背負うことになる。
仮に生産拠点が米国に回帰すれば、米国人が支払った値上がりの一部は、賃金や利益として他の米国人の手に渡ります。
企業と消費者が直面する値上げ・・・、ほとんどの輸入業者は上記のような複数の手段を組み合わせて、サプライヤーや消費者などに幅広くコストを転嫁していくと考えられていますが、解は一つではないようです。

トランプ1.0(2018-19年当時)に比べ、今回は価格転嫁率が上昇する可能性が有るのか?

一連のアナウンスを受けてリスクオフが進みましたが、市場はこの可能性を見に行ったのかもしれません。

トランプ1.0当時は米中両国が追加関税を課す展開に発展し、両国間の貿易量を減少させるという結果に至っています。
輸入額の減少は、輸入価格の低下ではなく、輸入数量の減少によって引き起こされていたことも明らかになっています。
米国の輸入に焦点を当て、輸入数量x輸入価格 という掛け算への影響を細かく見ていくと、

  • 輸入数量は減少した:多くの米国の輸入業者が追加関税により中国企業との取引を停止した。
  • 輸入価格は変化が無かった:中国の輸出企業600社に対するアンケート調査をアジア経済研究所の中で述べているのですが、資料によると、中国企業が「利益率が低すぎてこれ以上値下げできない」ことを挙げていたのです。だから値下げには応じなかった、値下げ余地がなかった。

    ※出所:ジェトロ・アジア経済研究所
    https://www.ide.go.jp/Japanese/IDEsquare/Eyes/2024/ISQ202420_017.html

つまり当時は、追加関税分が輸入国側で負担されていて、小売業者・消費者の負担が増えていたのです。

そして今回は、新型コロナ以降の急激なインフレもあり、企業が価格設定を変える頻度が高まっているという背景もあり、トランプ1.0の時よりも消費者への悪影響が早く出る可能性もありそうです。

トランプ氏は貿易赤字が嫌いです。貿易黒字が得で貿易赤字は損だと言いますが、あたかも諸悪の根源の様に取り上げられる貿易赤字はこれ自体特に問題視されるべきものではなく、そもそも国際貿易は輸出国・輸入国双方に利益をもたらすものであって、二国間の貿易収支が均衡することも無ければ、その必要性もない・・・と言われています。

理論上、「赤字」という言葉にひるみ、思考停止の状態に陥ることも多いですが、冷静になる必要があると思っています。米バロンズ誌曰く、市場は混乱に備えていなかった・・・ようです。予想外だったので、通貨市場は大きく動き、株式市場が対応できるのか懸念している、とのこと。
最初の一撃でインフレの不確実性が高まり、「FRB は次の政策決定についてより慎重になる」。経済成長に関する不確実性が高まれば、消費者や企業はより慎重になり、債券の期間プレミアムの上昇に反映され、金利は上昇することになります。
メディアは「特に関税の影響を最も受けやすい業界において、株式に対する楽観的な見方は低下する。ドル高も予想される」と伝えています。これらの関税が消費者にどのような打撃を与え、FRB のインフレ対策にどのような影響を与えるか注目が集まります。トランプ政権は、第一次トランプ政権の最初の任期中の関税はインフレを引き上げなかったと指摘しているけれど、当時は背景が異なり、企業は中国からの輸入品をメキシコからの輸入品に置き換えることができました。しかし、今回の関税の範囲を考えると、企業はそうすることはできないだろうという指摘が多いのが気がかりです。

大山季之

大山 季之(おおやま のりゆき)

松井証券マーケットアナリスト
経験から得た幅広いネットワークと確かな知識で複雑な世界情勢を紐解き分かりやすく解説

<略歴>
1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。

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