結局、インフレが収束していないのが原因ではないのか? 世界中で「不確実性」が課題に
2025年2月26日
マーケットアナリスト大山です。今週もよろしくお願いします。
今週の注目点は、何といってもエヌビディアの決算発表になります。現地2月26日にエヌビディア<NVDA>が11-1月期第4四半期決算を開示します。
今年、低コスト中華系AI DeepSeekが登場し、企業の巨額AI投資に疑問が生じています。
24日、マイクロソフト<MSFT>がデータセンターのリース契約を解除した・・・というニュースが市場に伝わりました。データセンターの供給過剰の可能性に触れたニュースになりますが、同社は今年1月、AI搭載データセンターの開発と世界展開に向けて約800億ドル投じる計画をアナウンスしていたのです。
「Microsoft Cancel Data Center Leases?(マイクロソフトがデータセンターのリースをキャンセル?)」というニュースヘッドラインが報じられ、「少なくとも2社のデータセンター運営者との契約を解除した」「戦略的なペース配分や調整を行う可能性がある・・・」と一部の証券会社が顧客向けのメモで伝えています。
これはマイクロソフトが数百メガワットの容量に相当するリースを解約した、データセンター戦略の転換を示すものなのか・・・?ということであり、データセンター向けに最先端の半導体を供給するエヌビディアはどうしている?どうするのか?この顧客の動向は横に広がるものなのか、など、市場を覆う不確実性をぬぐうことができるのか注目です。
- 日本時間25日、マイクロソフトは「データセンター戦略の変更を強く否定、予定通り」と述べたとBloombergは報じています
2023年と2024年に見られたデータセンターリース契約の急激なペースに比べ、マイクロソフトからの需要は後退しているものの、ソフトバンクら企業連合とOpenAIが立ち上げたAIインフラを米国に構築する5,000億ドルの投資計画「スターゲートプロジェクト」によって、参画するオラクルからの需要が相応に増加する点もあるので、急に設備投資需要(半導体需要)が下がる等、一気にネガティブに考える必要はないと思っています。マイクロソフトの需要の後退はオラクル・ソフトバンクへのOpenAIからの需要増加による可能性が高いのではないか?という意見もあります。足元のオラクルの状況は、今まで見られたことが無いような需要・案件の増加ともいわれています。
いずれにせよ、エヌビディアの決算発表では、データセンター向けビジネスの伸長(ビジネスの収益環境)・引き合いなど、製品(ブラックウエル)の出荷具合のほか、中華系AI DeepSeekの台頭に対する激しい市場の反応に対して(DeepSeekの偉業は、ハイテク企業が競争優位に立つためにどれだけの資本・先端半導体GPUが必要かという業界の想定を揺るがしたこと)正しかったのか?間違いだったのか?を説明することを期待しています。エヌビディアは投資家に対して「主要顧客であるハイテク大手各社の設備投資計画・支出意向に今のところ変化はない」「パーティはまだ終わっていない」といった、AIの将来性は誇張されていないことを示す必要が出ています。
個別株はエヌビディアに注目するということですが、一方で、以下は市場の全体感はどうなのか?という話題です。
結局、インフレが収束していない・・・?
足元の米国市場環境は不確実性が高く、マーケットは上値が重い展開が続いています。
事前予想を下回る経済指標の発表も相次ぎ、シティグループのエコノミックサプライズ指数もマイナス圏(2月24日現在 昨年9月以来となる水準)に低下しています。
シティグループ サプライズ指数推移

出所:Bloombergをもとに松井証券作成
期間:2024年2月26日~2025年2月24日 日次データ
今月は、7日発表の米雇用統計以降、労働市場は堅調です。物価統計もメディアでも話題になっていた鶏卵については約9年半ぶりの高水準を記録しました。また居住費や食品の伸びが加速し、物価は(CPI)前年同月比では4ヵ月連続で伸びが加速する結果になっています。
これは企業サイド(企業部門)に於いても顕著で、各地区連銀の製造業の仕入れ(原価に相当する部分)や事業見通しに於いてもコストが上昇していることが分かっています。
コスト上昇を見る限り、物価は決して落ち着いていない、と考えるべきなのかもしれません。
各種統計を見てもインフレは収束していない

出所:Bloombergをもとに松井証券作成
期間:2015年2月~2025年2月 月次データ
次に『経済政策不確実性指数』を確認してみます。
経済政策不確実性指数は、政策の影響による経済の先行きの不確実性を示す指標で、米スタンフォード大学の教授らによって開発され、経済政策の不確実性に関する新聞報道の定量化、先行きに控える税制変更の数、エコノミストによる経済予想の不一致度合いの3要素で構成されています。
基本的には政治的、政策的な不透明感が増すときに上昇する傾向が見られるものです。
ここには米国・ドイツの不確実性指数を載せています。
国別 経済政策不確実性指数

出所:Bloombergをもとに松井証券作成
期間:2020年2月~2025年2月 月次データ
米国は昨年11月のトランプ大統領就任以降に急上昇しています。米国では政策上も、経済指標の上でも不透明感が増していることを示しています。
そしてドイツも時代の趨勢なのか、じわじわと上昇し、過去30年間で見ても最も高水準に位置してきました。週末23日に実施されたドイツ総選挙もですが、欧州は昨年の5年に一度の欧州議会選挙の結果以降、極右政党の躍進が進み、自国優先の政治が分断を生み、財政規律が緩むことで不安が煽られ、結果的に不確実性が上昇して指数が上に向いています。
最後にグローバルの不確実性指数を確認しておきます。上述の米国・ドイツのトレンドの通り、グローバル不確実性指数は上昇基調にあります。しかも過去20年間を振り返ると、基軸通貨である米ドルに於いても有事のドル買いが(一応、まだ)健在だということが分かります。
足元の米ドルはトランプ関税の影響も大きく、過去のリーマンショック、英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)、コロナ、ウクライナ戦争など、様々な不確実性に見舞われた際に有事のドル買いが行われたのとは違うと考えていますが、上場株式や債券等が投資対象である伝統的な資産から金・ビットコイン・プライベートエクイティ、そしてドルなどの資産に逃避しているのは、まだ見えていない何か本質的なものがある・・・かもしれない?と考えています。
有事の●●買い・・・

出所:Bloombergをもとに松井証券作成
期間:2005年2月~2025年2月 月次データ

大山 季之(おおやま のりゆき)
松井証券マーケットアナリスト
経験から得た幅広いネットワークと確かな知識で複雑な世界情勢を紐解き分かりやすく解説
<略歴>
1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。