【トランプ関税を徹底解説】ドナルド、自分で脚を撃ってどうするんだ?
2025年4月4日
トランプ米大統領が相互関税導入を発表
2025年4月2日、トランプ米大統領は相互関税導入を発表しました。
かなり過剰な市場の反応を見ると、市場の想定を超える関税の引き上げだったと言う事だと思います。
アメリカに輸出するすべての国・地域に対して、少なくとも10%の関税を課すと発表していますが、ここにサプライズは無かったと思います。
しかし、トランプ政権が問題視している国に対しては、輸入額が大きい国・地域に対して、相互関税と称して高い税金を課すことになりました。
相互関税に関しては発動が4月9日でまだ日にちがあって、交渉の余地があるとしていますが、リスク資産は株式、原油、が大きく売られ、安全資産の金が買われています。
4月3日、関税発表後に取引が始まった東京市場でしたが、日経平均株価は下落、国債が買われて利回りが低下し、為替も円高に振れていました。
市場の反応、値動きだけを見ると、一山越えた感じがしましたが、夜のNY市場ではVIX恐怖指数が30ポイント寸前、原油安、株安、金利低下で債券価格上昇、米ドルが売られて米ドル円は145円20銭まで円高が進みました。
NY株式は寄り付きが強烈でシステマティックに売られた印象がありますが、先物の日中の動きを見ていくと、一旦株価が値を戻してもじわじわ売り物に押されている感じがします。
しかし、コカ・コーラやコストコはプラスで引けていますので、「全部売り」というクレイジーな状況ではありません。ユニークだったのは、関税賦課の中でメキシコの株価が上昇していることです。ウォルマートのメキシコ ウォルマックスという会社は上昇して引けていました。
トランプ関税の不確実性のピークは過ぎたのだろうと思いますが、相場の変動は大きくなると思うので、ボラティリティの上昇には気を付けたいところです。
そして「ここが関税の上限だ」というベッセント財務長官のコメントが伝わっています。
これは今後、交渉によってどこまで実質的に関税を引き下げることができるのかという事だと思います。
つまり、発表された相互関税=関税の上限であり、交渉を前提にしているので「突っ込んで売るのは避けたい」と私は感じました。
関税問題の要点は
2月19日からの株価下落と関税発表後のリスクマネーの動きを考えると、アメリカ離れは起きているものの、投資家はこのトレンドが続くのか?何があったら方向修正されるのか?修正のタイミングはいつなのか?と言う事を知りたがっています。
あしもとの実体経済(個別企業とマクロ経済)の影響を見ながら、今回は「影響が既に出ている」と言う事をお話ししますが、そのあとにマーケットへの影響を見て、リスクマネーをこの間どこに置いておけば良いのか、想定されるシナリオなどを考えたいと思います。
① 実体経済への影響は
関税が強化されましたが、古から、「関税は自分の脚を撃つようなものだ」という言葉があります。
市場の反応を見ると、まさにそう感じます。個別企業・ミクロもマクロ経済も影響が出始めているという具合です。
個別企業は、2月ごろから少しずつ影響が出ています。
ウォルマート<WMT>は、関税による影響を相殺するために中国のサプライヤーに価格引き下げ交渉を行う中で、中国当局に呼び出されて苦戦していると報じられています。
このままでは価格転嫁ができず、利益率が圧迫されるような事態になりそうだとの報道が有りましたが、定期的に大量の中国製品を買う”buying power”で凌いでいけそうな気がします。
気になる日系自動車メーカーに関しても報道があり、自動車関税25%インパクトで、日系自動車メーカーの利益インパクトは、トヨタが約マイナス19%、ホンダが約マイナス59%、日産はほぼ100%、マツダが約86%とあり、販売奨励金を捻出できない(要するに値引きができない)うえ、コストを吸収できずに減益になると日経が報じています。
マクロ経済を見てみると、景気先行指標は既に投資や消費に対するマインドはトーンダウンしています。マクロはどうしても遅行してデータが公表されるので、今後出てくる経済指標は、「強い数字が出た場合は関税公表前のもので意味がない、弱い数字が出た場合は関税でもっと下にいる可能性が有る」と市場が考える点には注意が必要です。
関税問題は、すでに消費者心理に悪影響を及ぼしつつあるのですが、今後、どの程度まで悪化するのかが勝負のポイントです。
消費関連の統計、特に気持ちの揺れ動きに関して注意して見ておくと良いと思います。
②市場の反応は
悪化している消費マインドの中で、投資家のアメリカ離れが続くと考えています。
実際に米国財務省の国際資本統計で、資本取引は1月に8か月ぶりの資本流出、このようにリスクマネーのアメリカ離れは、マーケットのパフォーマンスを見れば明らかです。
あしもとマネーの行先はゴールド、欧州、中国に分散されていて、そのなかで4月3日は最悪のケースである景気がクラッシュするシナリオを一気に織り込みに行った感じがします。
トランプ政権は本来であれば、関税が上昇し、貿易量が減る、貿易赤字が減る、景気の下押しは有るが一時的、輸入物価が上がらないからインフレが抑えられて、その後(あまり期待してはいけないけれど)、消費は国内メーカー中心になり、国内製造業が息を吹き返して生産意欲が高まる、景気が盛り返す…といったシナリオを描いていたはずです。
しかし投資家は、貿易量が減る、関税の影響を見極める企業が増えて景気が停滞、スローダウンする・冷えていくことを一気に見に行った感じでしょう。
東京市場で株が引き続き売られ、日本国債が買われて利回りが低下、円高ドル安に振れたことを考えると、やはり景気悪化の心配をしていると感じます。
投資戦略については以下の動画で解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。
トランプ政権の転換点はどこにあるか
今回の関税問題では、各国で関税のかけ合いになれば世界的な貿易額の縮小を招き、輸入物価を押し上げてしまう場合はインフレのリスクが出てしまいます。
だから人々がアメリカから距離を置こうとしている…アメリカ離れムーブメントが起きていることが嫌だなと感じています。
事実、たとえばテスラの不買運動がおきて2025年1〜3月期の世界販売台数が落ち込んだこと、さらに米国株の売却を決めた欧州の年金基金があります。
デンマーク教職員が加盟するアカデミー年金基金は、テスラ株の全株売却を決めたのですが、このように、実体経済に影響が出ています。
しかし、トランプ大統領とそのチームは、現時点では、株価の下落は問題ないというメッセージを市場に送っています。
政権は中間選挙に向けて、経済政策・関税をテコにしてアメリカ製品を優遇し、製造業を活性化させることを訴えたいはずです。だから政権支持率を気にすると思うのです。
つまり、政治の支持率次第でスタンスの変化にスイッチが入る可能性が有ると思っています。
今後は、支持率に関する2つのポイントを確認しながら、スタンスの変更を見ていくのが良いと思います。
結論、今後もしばらくアメリカ離れはありそうですが、グッドシナリオにバトンが渡る夏までの4-6月が一番厳しい時期になるでしょう。
トランプ政権が手元に残しているカードが3枚あります。①減税 ②規制緩和 ③パウエルプット(利下げ)です。この3枚のカードにバトンが渡るまでは、相場の変動が大きいのかなと思っています。
今後は、関税交渉の結果で税率が引き下がり、政策スタンスが変化すれば消費が落ち込まず、ハイテク企業の成長シナリオが再評価されていくのではないでしょうか。
当面は心配事が多いですが、年央以降は年末にむけて株価は回復すると考えています。
一番のリスクは、米国の金利の位置とFRBの金融政策を想定しています。
金利が再び上昇した時にFRBの金融政策が縛られないのか、ということであります。

大山 季之(おおやま のりゆき)
松井証券マーケットアナリスト
経験から得た幅広いネットワークと確かな知識で複雑な世界情勢を紐解き分かりやすく解説
<略歴>
1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。