アメリカの中東軍事介入はひと段落へ。
今後の材料もやっぱり『TACO』?

2025年6月25日

マーケットアナリスト大山です。今週もよろしくお願いします。

この週末も刺激的でした。
今週のコラムも中東情勢の話からです。

米国による中東への軍事介入の可能性が伝えられた後、直ぐに「限定的な」軍事介入が開始され、米軍はイラン核関連施設への空爆を行っています。その後、イランからの部分的・散発的な在中東米軍基地への報復攻撃があったものの、イラン国内の反体制派に向けたポーズにしか見えず、そして日本時間24日午前7時過ぎ、イランが米国提案の停戦に同意したと伝えられています。
これにて中東を材料にしたテーマ「トランプ大統領が望んだ力による和平」の実現が高まり、23日から24日にかけて、原油価格、有事のドル買いが一服しています。中東テーマが一服しています。

今後のシナリオは3つある・・・というお話からです。

①イランが敗北を認める(明示するもしくは暗黙的に)可能性:
地政学リスク・緊張の緩和から原油価格が下落、金価格の下落、株式市場の上昇が考えられます。

②イランの報復行動が再びエスカレートする可能性:
暫定的な停戦があったものの物別れに終わり、石油施設への直接的な攻撃や海峡封鎖などが起きるシナリオ。紛争再拡大次第で影響が軽微にとどまるのか甚大になるのかまだ不透明ですが、一つ言えるのは「さらに安全資産への逃避が進む可能性が高い(金・米国債買い)」ことでしょうか。そしてエネルギー価格の高止まりと市場の不安定化が続くことになりそうです。すべてはイランの核能力、ウランが葬られたのかどうかです。

③イランがクーデター、国内蜂起または予期せぬ状況で政権が交代する可能性:
イランの最高指導者ハメネイ氏は86歳。核開発に多額の資金を投じたことで経済は低迷、不満は高まっていると報じられています。イスラエル、米国の攻撃で指導力が終焉を迎える可能性は有るのではないでしょうか。
米トランプ大統領はSNSへの投稿の中で、「『体制転換』という言葉を使うのは政治的に正しくないが、もし現在のイランの体制が『イランを再び偉大に(MAKE IRAN GREAT AGAIN)』することができないのであれば、なぜ体制転換が起きないのだろうか???MIGA!!!」と書き込んでいます。
米バンス副大統領は「われわれはイランと戦争をしているのではない。イランの核開発計画と戦争をしている」「事態を長引かせたくはない。核開発を終わらせ、長期的な解決策についてイラン側と協議したい」と述べていますが、この3つ目のクーデターのシナリオは、政権交代が民主主義的な穏やかなものか否かで、全く違う事になりそうです。

先週19日は、奴隷解放記念日で米国は祝日でしたが、米ホワイトハウスの報道官(Press Secretary)Leavitt報道官がトランプ談話をアナウンス。
ヘッドラインはTrump Set to decide Within Two weeks whether to strike Iranでした。
この時は報道官もはっきりと近い将来、イランとの交渉が行われる可能性がかなりあるという事実に基づき、“I will make may decision whether or not to go within the next two weeks”というメッセージを受け取ったと言っています。この時、空爆次第で停戦まですぐに事態が進展するという思惑があったのかもしれませんね。

そして現地22日未明、米軍はイランの核施設を空爆。CNBCはOBLITERATEDという言葉で伝えていますので、「米軍はイランの核施設を完全破壊した」という事でしょう。
これにより、ウラン濃縮施設の破壊という目的は達成されたようですが、濃縮ウランはすでに施設から運び出されたとの報道があるので、実際に核能力がどこまで破壊されたのか、今後どこまで米国が軍事介入を続けるのかまだ不透明なままです。
先週末にかけて、中東イスラエルの株価(テルアビブ35指数:TA-35)は上昇し、史上最高値を更新していたのですが、案外早く片付くことを想定していたからでしょうか。
今後は停戦によってリスクプレミアムが下がる中で、市場が次のテーマを何に絞るのか注視されます。

中東プレイ原油・金・ドル買いリスク
➞トランプが「TACOする」可能性は高い?

米国が中東へ軍事介入を行えば原油価格が上昇すると見られていました。2022年2月のロシアのウクライナ侵攻時は75ドル程度の原油価格が一気に125ドルを超えたのを記憶している市場関係者も多く、イランがホルムズ海峡を封鎖する可能性に身構えています。冒頭の②のシナリオです。
海峡封鎖でイラン産の資源が流通しない供給減リスクについては、欧米・日本もイランから石油を輸入していないので、直接的な、大きな影響は出にくいのですが、イランがホルムズ海峡を航行するタンカーを奇襲するリスクがあり、このことが、中東からの資源供給リスクにつながると考えられていました。

現状の経済環境下で(通商政策、関税交渉中の間に)資源高、インフレリスクが可視化されてしまうのは是が非でも避けたいところです。
企業業績の面では、コストアップインフレが業績を圧迫していきます。6月FOMCでFRBパウエル議長が述べた「(関税の影響で)夏にかけてさらに物価が上昇する見込み」発言の様に、資源価格が上昇してインフレリスクが表面化されると、不況とインフレが共存する事態になり、非常にマズいのです。
筆者を含め、市場関係者の手持ちのカードの中で一番強力な「利下げ」カードを使う事が出来ない・・・これはネガティブです。

何か解決方法は無いのだろうか?実は無いわけではなくて・・・。
タコはタコでもファインプレイと称されるような「TACO」、オオタコをトランプ大統領がキメてくれる可能性が有るのではないか?と思っていまして・・・

最近、トランプ大統領には「TACO」というあだ名がついています。
”Trump Always Chickens Out”(トランプはいつも最後はビビる)の頭文字をとっているのですが、今回、中東で「TACOする」のか、それとも棚上げになっている関税で「TACOする」ほうが良いのか、この二つの「TACOする」可能性が高い・・・と考えています。

中東介入の「沼」にハマり、原油価格が急騰する中でスタグフレーションリスクが上昇すれば、トランプ大統領は自身の政策に対してビビる(TACOする)かもしれないのです。誤解を恐れずに言えば、トランプ減税の原資を確保するという難しい問題が残りますが、スタグフレーションを避けるために(できれば企業のB/Sに積み上げられた在庫がなくなる前に)、一旦、関税を棚上げ・凍結することになれば、一気に事態が好転する可能性があります。
そしてイスラエル軍が優位な状況下で核濃縮施設を米軍で叩き、(実際に核開発の施設内部が完全に破壊されたのかは確認ができませんが)「これでイランの核開発を終わらせることができた!」と発言し、結果的にうやむやの中で中東に和平が訪れた等々、「TACOする」ことになれば、状況次第で「オオタコ」になる可能性が有ると考えています。

大山季之

大山 季之(おおやま のりゆき)

松井証券マーケットアナリスト
経験から得た幅広いネットワークと確かな知識で複雑な世界情勢を紐解き分かりやすく解説

<略歴>
1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。

まだ米国株口座をお持ちでない方は、
インターネットで今すぐお申込み!

リスクおよび手数料などについて