株高の背景、9月FOMCを巡るドラマ

2025年9月17日

マーケットアナリスト大山です。今週もよろしくお願いします。

マクロとミクロに好材料、株高の原動力は・・・

株価上昇の原動力はマクロ経済にリードされた「利下げ期待」と、個別企業の発信する「AI絶好調」という材料です。足元はマクロとミクロに支えられ、高値更新を続けています。

それぞれ見て行きましょう。
①マクロ:9/8米労働省労働統計局(BLS)が公表した雇用統計の年次改定(速報、なお確定値は来年2月に発表予定)で雇用者数過去最大の下方修正が発表されています。
先月末のJOLTS求人件数で企業の「雇用しない動き」を確認➤ADP雇用統計で雇用者数が落ち込んだ➤雇用統計で雇用者数が落ち込んだ➤年次改定で大幅下方修正された流れのあとで、weekly失業保険申請件数も加わり、労働市場の減速感が一段と鮮明になりました。
労働市場の状況は、今年の前半よりも急速に冷え込んでいるようです。
雇用統計でみる失業率は均衡が取れているので雇用の悪化を確認し辛いのですが、失業率の数字以上に、雇用者数の鈍化ペースが速いこと、パート(副業)人口の増加で見た就労環境の不確実性が高まっていることで、0.5%利下げの求める声も出てきました。
これらの利下げ期待が株高の呼び水、原動力になっています。

加えて9/11に開示されたCPIは、小幅に上昇したものの、関税による物価への影響が限定的と判断されています。FRBが利下げを行うという“鉄板”予想を覆すほどのインフレ懸念は無く、結果的に、利下げ期待が一段と高まって株価上昇を支えています。

これら2つのマクロの組み合わせ-雇用増加数は失速状態にある、物価はFRBの目標とする2%を上回る状態に未だある-は、軽度のスタグフレーションに相当する状況を示しているかもしれません。
スタグフレーションの場合、利下げを急ぐと(一気に0.5%利下げを行うなど)、インフレ圧力が高まる可能性も有り、注意が必要です。

②ミクロ:9/4の半導体大手ブロードコム<AVGO>の決算に続き、9/9日にIT大手オラクル<ORCL>がAI関連の需要に対して明るい見通しを示したことが好感され、テクノロジー関連株が上昇しています。オラクルが「AI絶好調」に火をつけたと言っても過言ではありません。
株価の反応は驚異的で、決算発表翌日の株価は35.9%上昇です。
化け物の様に株価がかッ飛びました。主要メディアのCNBCもOracle stock surges : hits record highと伝えていますが、1四半期前の決算発表2025年第4四半期(3-5月期決算)決算発表直後に、超大型クラウドビジネスの契約締結が報じられており、マルチクラウドデータベースの売上(他社のクラウド上で稼働するオラクルのデータベース上の収益)が凄いと言っていたことを思い出しました。スターゲイトプロジェクトには1枚噛んでいますし、中東ではIBMと新しいAIパートナーをアナウンスしていて、一番元気があります。
足元の報道では、バイトダンスのTikTokやNvidiaも主要クライアントとしてカウントされています。

ウォール街は、株価と実体経済にギャップがあるのではないか?という趣旨で、AI投資減速リスクを見るべきという警告を出していたのですが、ウォール街はペシミスティック斜に構えて悲観的な一方で、実体経済は絶好調と述べるマネジメントが多かったのも事実です。
ブロードコムの決算でホック・タンCEOがBig improvement for AI OUTLOOK in 2026(今年同様に来年も50-60%成長が続く)と述べ、直近1年で3,300億ドル設備投資を行ってきたハイテク大手4社は来年4,300億ドルに設備投資額が達する等々、実体経済は上向きです。
クラウドビジネスの需要が供給を上回っているからこそ投資を続けるのですが、この需要にどれだけ応えられているのかという成績表をオラクルの決算で確認した・・・と考えています。

これらマクロとミクロの材料にリードされ、先週の米国株はS&P500は8日から11日まで4連騰、週明け15日も上昇し、史上最高値を更新。ナスダック指数は8日から15日まで6連騰です。

とにもかくにもFOMCです

FOMCの結果、金融政策は日本時間9/18早朝に発表されます。
0.25%の利下げは確実視されていますが、今回のFOMCは経済指標を並べた時に強い指標と弱い指標が混在し、判断が難しいことに加え、FRB人事を巡る政治ドラマも有ります。
今回のFOMCは、トランプ政権からの「干渉」が中央銀行の独立性へ疑問を投げかけるという近年稀にみる複雑怪奇、魑魅魍魎な、最も重大な金融政策を決める舞台になるかもしれません。

経済指標の良し悪しが混在していることは既に述べましたが、FRB人事と政権の干渉は結果的にFRBは何を失い、市場に何をもたらすのでしょうか?

まずFRBクック理事を巡る問題です。
住宅ローン疑惑を巡ってトランプ大統領が解任を試みていますが、9/16段階で住宅ローンの税制優遇を巡る措置に違反がないという判断が出てきました。現在、クック理事は法廷闘争中なのですが、FOMC会合に出席しています。法廷闘争中、審理が続く間はFRB理事としての立場が守られるようです。
しかし法的に不確実性が有る状況の中で、クック氏の金融政策議論への参加や投票判断が、どの様に金融政策全体に影響を与えるのか?全く見通せません。

そして経済諮問員会委員長のスティーブ・ミラン氏が8月に辞任したクグラ-氏の後任として、FRB理事に就任し、FOMCへ参加しています。
ミラン氏は既に金融緩和を支持する立場を鮮明にしていますが、このミラン氏の理事就任の件が、FRBの独立性に対する新たな疑念になっています。
彼は、全FRB理事を大統領がいつでも解任できる「任意雇用者」とする案を提唱するなど、かなり先鋭的なアイデアを持っています。ミラン氏の就任は、まるでトランプ政権が経済政策を推し進めるために将来の人事における柔軟性を持つための戦略的な人事措置・・・と言われる所以です。

ミラン氏のFOMC参加で、金融緩和のハト具合も変化するかもしれません。
たとえばFOMCの文言も大きく変化し、労働環境の悪化を認めるような強めな表現を強いられ、将来の金融緩和バイアスがより明確化するかもしれません。 ドットチャートを通じて、FOMC参加者が大きくハトに傾いたかどうかを確認することになりますが、マーケットはどのような反応をするのでしょうか。

マーケットは、金融当局が、どれほど積極的に利下げを継続させるのかについては明確な答えを得られていませんが、FRBの理事の人事を巡る動き、FRB内部の椅子取りゲームは混沌としています。

市場が最も警戒するのは、FRB中央銀行の独立性低下への懸念かもしれません。
長期的なインフレ期待が上昇するリスクがあります。実際、マーケットは「政治的に過度な利下げを要求すること」は、将来のインフレを想起させ、短期的な金利低下と長期金利の上昇(イールドカーブのスティープ化)という形で織り込まれる可能性があります。
単純に金融緩和で過度に楽観的になり過ぎず、債券市場が示すような、この茶番劇の向こうに見える金利の動向つまり上記のスティープ化に留意する必要があります。

政治リスク、金融政策に対するFRBの独立性、米国債の長期的な信認への影響を見極めることになる今回のFOMC、大注目です。
今回のFOMCは市場に何を与え(示唆し)、市場は何を失うことになるのか。
将来、金融緩和が長期的なインフレ期待を押し上げることになってしまい、ものすごいコストを支払うことになるかもしれません、、、当面は株高だとよいのですが。

大山季之

大山 季之(おおやま のりゆき)

松井証券マーケットアナリスト
経験から得た幅広いネットワークと確かな知識で複雑な世界情勢を紐解き分かりやすく解説

<略歴>
1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。

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