FOMCの2つのポイント、米国株はバブルではない

2025年9月24日

マーケットアナリスト大山です。今週もよろしくお願いします。
先週は、FOMC会合で金融緩和が決定し、エヌビディアのインテルへの出資の話や、日銀金融政策決定会合(ETF売却100年計画)などがあり、週明けにはエヌビディアがOpen AIへ最大1,000億ドル出資するという超シビれる様なニュースが相次いで飛び込んできました。
週明け22日の東京市場は、19日に大きく調整した分を取り戻そうと上昇していました。

なお市場が過剰に反応した日銀ETF売却の件は、市場へのインパクトに配慮するなど、冷静に消化されそうな雰囲気で、自民党総裁選に関しては高市さんなら積極財政、小泉進次郎さんなら若返りでメッセージが非常に分かり易く、いずれにしても積極財政の展開を予想することで株高に結びつきそうです。

今週のコラムは、先ず0.25%利下げ決めたFOMCから振り返りたいと思います。

FOMC振り返り:やっぱり複雑怪奇だった

今回のFOMCは一言で言えば「複雑怪奇」で、トランプ大統領の通商政策に伴うインフレ再加速懸念、物価上昇・労働市場鈍化に伴う景気減速懸念、加えて「FRBの独立性」に対する対処を受け、今までには無い対処が求められた前代未聞の複雑怪奇なFOMCだったと思います。
既に報じられている通り、金融政策は2024年12月以来、6会合ぶりに利下げが決定され、政策金利は0.25%引き下げられました。
パウエルFRB議長は、8月のジャクソンホール会議で「雇用の最大化」と「物価の安定」という
FRBの政策目標(デュアルマンデート)のうち、雇用の下振れリスクを強調しつつ、9月FOMCにおける利下げの可能性を示唆していました。よって、今回の利下げの決定は大方の予想通りの結果だったと言えます。
注目点は金利見通し、経済見通し、そしてパウエル議長の記者会見で、先行きの利下げペースに関する手掛かりがどのように示されるのか…投資家の注意を引き付けていました。

個人的に特筆すべき点は2つあったと考えています。
①FOMC声明文「リスクバランスのシフト」:今回の利下げは景気悪化に伴って利下げが行われたわけではなく、パウエル議長は、物価と雇用、特に雇用に関してリスクバランスがシフトしたから利下げを行うと説明しています。
つまり、足元FRBは利下げプレッシャーを内外野から受けている中で「リスクバランス」が変化したので利下げを行ったと説明しています。仮に、足元で鎮静化しつつある物価が再び上昇した場合、リスクバランスがシフトしたから利下げを中断すると説明ができるようにしている点に、声明文の文学的要素と言うか、パウエル議長の気概を感じました。
そして今回アップデートされた金利見通し、経済見通し(SEP)では、政策金利について年内あと2回の利下げが見込まれ、2026年以降も緩やかな利下げが実施される見通しが示されています。
来年の金融政策の見通しに関しては、やや市場予想と乖離が有りますが、経済見通しの中では実質GDP成長率は全体的に上方修正され、失業率も26・27年見通しは前回よりも改善を見込み、「利下げが景気を下支えする」前提にあり、金融当局は景気を「底堅く見ている」ように感じました。

そして2点目はFRBを巡る政治です:②新理事就任のミラン氏の件です
恐らく、政治的な側面だけを切り取れば、ミラン理事は、暫く無視しても良さそうです。
FOMC会合では、ミラン理事は唯一0.5%の利下げを支持して反対意見を表明していますが、パウエル議長と他のメンバーは、2024年以来となる0.25%の利下げを選択しています。
そして驚くべきことに、従来、FRBの中では反対意見は、会合後に発表される書面による声明で説明されたのですが、ミラン理事は声明を発表しないとしました。「書面による反対意見は短すぎる。自分の見解を完全に説明したい」とのことで、講演の場で改めて自分の主張を詳しく説明する予定にしています。
このようなミラン氏の態度・言動に、ほかの理事や地方銀行総裁とのコミュニケーションが全く取られていない感じがします。この点は全く分かりませんが、ハト急先鋒(金融緩和論に振れている)と見られたボウマン・ウォラーの2人の理事も0.25%利下げのみを支持し、利下げを求める急先鋒同志でコミュニケーションがとられていないのではないか?と感じましたし、トランプ政権から送り込まれた理事は大幅利下げに向けて内部を切り崩せていない感じもするのです。
ミラン理事は、表面では「新しい理事を温かく迎えてくれた」と述べていますが、そんな訳はなさそうです。
週末、Bloombergがミラン理事にインタビューしていますが、「ミラン氏は政策当局者の中で説得力のある存在になりたいとの考えを示した。『今後数週間から数か月にわたって自分の主張を行い、その過程で同僚の何人かを説得できることを望んでいる」」と伝えています。やはり、FOMCの他の参加メンバーとの距離が有りそうではないでしょうか。

今週は、次に、米国株がバブルなのか? バブルではないのか?という点に触れたいと思います。

米ハイテク株はバブルなのか?

Fears of a Tech Bubble Have It Backward. Stocks Can Keep Going.
これはBarron’sに記されているものですが、「テックバブルの懸念は逆効果!株価は上昇を続けられる」というニュースヘッドラインが流れています。
実際、バリュエーションだけを見ると株式市場は若干バブル気味に感じられるかもしれませんが、1990年代後半のインターネットブームに支えられたparabolicな放物線的なハイテク株取引とは全く異なるとしています。同感です。
先週のコラムでオラクル<ORCL>の驚異的な決算・受注残に関して述べましたが、現在と1999年の株式市場の熱狂との間には大きな違いが有ることに既にお気づきだと思うのです。そもそも、現在の企業は実際に利益を上げている、実需に基づいているという点が有るのです。
Barron’sではソロス・オルタナティブ・アセット・マネジメントのストラテジストのコメントを紹介していますが、「売上高の有無にかかわらず、あらゆる企業が上場していた。市場全体やセクターを横断した熱狂ぶりは、今日の状況とは全く異なる」とのことです。
たしかに割高なハイテク企業が出始めていますが、「ドットコムバブル時の評価額」には程遠いのです。
有名な話ですが、アラン・グリーンスパン前FRB議長は1996年12月、市場がピークを迎える数年前に資産価格の高騰を "irrational exuberance" 「非合理的な熱狂」と表現しています。

実際、AI関連株は実需から果実を得ています。エヌビディアは爆発的に業績が伸びて株価が駆け上がりましたが、株価上昇は単なる評価額ではなく「極端な収益・売上高の修正」が原動力です。
またオラクルの大幅な株価上昇は、同社が市場予想を大幅に上回るAI収益予測を発表した後に発生しました。同社は今後4年間でクラウドインフラ事業収益が1440億ドルに達すると見込んでいますが、これは今期の予測180億ドルから大幅に上方修正されたものです。
さらにハイテク大手企業は、過剰なキャッシュフローを抱えていて、自社株買いを行っていることもあります。
資本支出や研究開発に資金を投じつつ、自社株買いにも十分な資金があり、これはテックバブル時とは正反対の状況です。

市場のリスクは、ビジネスコストの低下のスピードが緩む可能性だと考えています。

近年、アメリカ企業は、ITを通じて生産性を改善させてコストダウンを強烈に行い、ビジネスコストを下げてきたわけです。ところが、世界中で政治が右極化し(トランプ大統領の誕生もそうです)、自由主義経済からの転換によって(右極化したこと・ポピュリズムの台頭などで)これまでビジネスコストを下げてきたデジタル化とグローバル化が真っ向から否定されてしまいました。一番便利で価格競争力のある所にサプライチェーンを築き、経済をつなげて安定させてインフレを下げさせてビジネスコストを下げていくという部分が最近できなくなっています。
今週のコラムではFOMCを振り返りながら、今後の低金利政策に関して述べていますが、政策金利を下げても政治のブレから財政問題・中央銀行の独立性に対する懸念から長期金利が下がり辛くなっている状況が心配です。金利低下はビジネスコストの低下であり、非常に意味が有るものですが、政策金利と比べて、市場の金利水準がなかなか下がらないことは大きなリスクだと考えています。

このように、リスクが混在する市場環境なので、「品質基準を少し下げてバリュー志向の領域に投資機会があるように見えるものの、十分な成長機会を犠牲にしたくない」と考える投資家は少なくないと感じます。
収益予想の上方修正、予想を上回る決算、低い株価純資産倍率(PBR)、低い株価売上高倍率(PSR)、フリーキャッシュフローの規模といった要素をもう一度重視すべきかもしれません。
市場全体で段階的な調整が進むかもしれない時こそ、企業の生産性を飛躍的に向上させる力を持つAIや半導体関連に注目したいと考えています。

大山季之

大山 季之(おおやま のりゆき)

松井証券マーケットアナリスト
経験から得た幅広いネットワークと確かな知識で複雑な世界情勢を紐解き分かりやすく解説

<略歴>
1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。

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