米国政府閉鎖が始まった・・・株価は高値更新

2025年10月8日

マーケットアナリスト大山です。今週もよろしくお願いします。
2025年10月1日、米国では連邦議会や政府予算案が可決されなかったことを受けて、約7年ぶりに政府が閉鎖されています(日本時間10月6日(月)現在も、シャットダウンと呼ばれる政府閉鎖が続いていますが、もはや恒例行事と化しています 苦笑)。米主要メディアも政府閉鎖直前はGovernment shutdown , Potential market risk・・・などあれこれ言っていました。
今週のコラムでは、2026年会計年度の歳出法案が成立するまでのつなぎ予算の成立に失敗して政府閉鎖に至った件を見て行きます。

22回目の政府閉鎖の影響

今回の政府閉鎖は史上22回目になりますが、近年珍しいことではなく、むしろ「時々あること」であり、前回は史上最長となった35日間の閉鎖でありました。
政府閉鎖が長期に及ぶ場合を懸念する向きもありますが、すでに米Barron‘s誌は米国議会予算局 CBOの試算したインパクトを記事にしていました。
Economic Impact of a Shutdown Likely Minimal, CBO Estimates:記事によれば、過去は経済成長に“わずかな”足かせとなったと述べています。恐らく「政府閉鎖の経済に及ぼす影響はその範囲と期間によって異なる」のですが、2019年1月に終わった前回の長期間のシャットダウンの場合、35日間の資金調達の“失効”で30億ドルの損失、GDPインパクトで0.02%としています。連邦政府の給与支払いの遅れで、給料を支払わなかった連邦職員の個人消費が減少した様ですが、その影響は、人々が仕事に復帰すると戻ったとのことです。
CBOは、政府の閉鎖が数週間続いた場合、一部の民間部門の団体は、連邦活動の停止の結果として失われた収入をすべて取り戻すことはできないだろうと予想、ウォール街のエコノミストの中には、閉鎖が続く週ごとにGDP成長率が0.1〜0.2%ポイント低下すると推定しているという意見があります。
「ワシントンD.C.などの都市圏は被害を受け、閉鎖によって最大の経済的ダメージを受けることになる」と言う事ですが、所詮(相手が先に引き下がることを期待する)チキンレースなので、「閉鎖は短命に終わるだろう・・・」と言う意見が多数を占めています。

ここで注意が必要なのは、予算成立の遅延に伴う政府閉鎖は、債務上限の引き上げが合意されなかった場合の支出停止とは異なるところです。つまり、債務上限に達して、これ以上借金が出来ない場合の支出停止とは異なる部分です。米国債の支払い遅延やデフォルトにつながる恐れがあると市場に深刻な影響を与えますが、これに比べると予算の成立の遅延に伴う業績機能の停止・政府閉鎖は、国債のクレジットリスクには影響しないものと考えていますので、影響は限定的だろうと考えています。

下記、WSJ紙の記事は皮肉を込めているのかもしれないですが、
Why Microsoft Has Lower Borrowing Costs Than the U.S.
There are several theories for why anyone would pay more for a bond from Microsoft or Johnson & Johnson than for a Treasury
米国債とマイクロソフトの社債の価格を比べると、米国政府保証の米国債の格付け(クレジット)のAAがマイクロソフトに劣るというものです。マイクロソフトは最上位格付け、AIで巨万の富を築き、AIに関する巨額の設備投資を行うマイクロソフトの債券利回りが米国債よりも下回る・・・という記事です。
ご存じの通り、米国政府の赤字が膨らみ、国債の大量発行が求められています。同時に、企業は収益性向上に伴い、借入需要は抑制されており、結果として、国債の発行増加と最上位格付け企業の発行減少は、当然のことながら、投資家需要が利回り格差に表れている…という記事です。
皮肉を込めて・・・ですよね。

政府閉鎖はFRBの判断にも影響を与えるが・・・

足元は政府閉鎖に伴って、FRBが ”Fly Blind” “May be 'flying blind' on interest rates” つまり情報に頼らず飛行機を操縦する(計器飛行をする、手探りでやる)と表現されることが非常に多かったと思います。ここ数カ月間は、経済は物価の上昇とともに雇用の急激な減速に見舞われていて、ウォール街が「スタグフレーション」と呼ぶ条件が整い始めています。このままFRBが経済データの入手が出来ず、金融政策決定を視界不良の中で行うことになれば一体どうなるのでしょうか。市場関係者は、政府閉鎖が金融政策FRBに対する影響を懸念している状況です。

政府機関の労働統計局が一切の作業を停め、雇用統計は発表されませんでした。
このままであれば、来週のCPI、PPIの発表もなくなる可能性が高いと市場は考えています。経済統計資料がない中で金融当局は利下げの判断をすることができるのか?と言われ、今回の政府閉鎖の最大の経済的影響は、経済指標発表に関する遅延・中止ではないか?と感じています。
スタグフレーションではないのか?と市場参加者が考えている経済の転換点に於いて(私は軽めのスタグフレーションだと見ていますが・・・)、FRBは金融政策のトレンドを追いかけ、金融政策を変更することが出来るのでしょうか?
足元は経済のみならず株価・バリュエ―ションが上昇し、状況次第では大きな負担にもなります。

確かに過去は、政府閉鎖が短期で終わっていたこともあって金融市場に大きな影響を与えていません。
短期間だったので経済的な影響が限られていたのかもしれませんし、敢えて政府閉鎖とマーケットの相関関係を考えること自体ナンセンスかもしれません。しかしながら今回は、利下げ期待値が非常に高いだけに、状況次第では波乱があるかもしれません。市場の「確信」と金融当局の「躊躇」の間には大きな隔たりがあると見られています。最近は複数のFRB当局担当者がインフレは依然中央銀行の目標とする2%を上回っていること、そして経済は市場が考えるほど大きな支援(利下げ)を必要としていないかもしれないと警告をしている点も少し気がかりです。
ダラス連銀のローガン総裁:
「9月の利下げは労働市場の下方リスクに対して保険として支持しただけ」と述べ、
「不適切に緩和的なスタンス(やたらに利下げをすること)に陥ることなく追加利下げを行う余地は比較的少ないかもしれない」と述べています。
FRBジェファーソン理事:
「10月のFOMC会合では利下げするか一時停止するか未だ決めていない」
「今後の政策金利の道筋は、新たなデータ、変化する見通し、リスクバランスに基づいて、金融政策の適切なスタンスを引き続き評価していく」と語っています。

しかし、経済データが政府機関から発表が無ければ、評価は不可能です 苦笑

大山季之

大山 季之(おおやま のりゆき)

松井証券マーケットアナリスト
経験から得た幅広いネットワークと確かな知識で複雑な世界情勢を紐解き分かりやすく解説

<略歴>
1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。

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