メタの巨額投資はSPV経由、簿外ビジネスのリスクとは?

2025年11月05日

マーケットアナリスト大山です。今週もよろしくお願いします。
本コラムを11/4に執筆していますが、米国の政治対立で政府閉鎖は2ヵ月目に入りました。この史上最長記録に迫る政府閉鎖が有ってもウォール街はまったく気にしていない・・・くらいリスクマーケットは堅調に推移しています。
今週はトランプ大統領がアジア訪問から帰国し、政府機関閉鎖の終わりが見えてくるのか注目されています。その一方で、市場参加者はマクドナルドなどの企業決算を引き続き確認しつつ、「大きなAI関連ビジネスの設備投資」「ハイテク企業各社の設備投資計画を精査」していくことになりそうです。

7-9月期決算は今のところ好調に開示を続けています。S&P500構成企業の2/3近くが発表を終えていますが、80%以上の企業が収益予想(EPS)、売り上げ予想を上回る結果を出しています。
好発進と言えます。
市場で注目された主要テック企業の決算発表も無事通過・・・ですが、株価の反応はまちまち。
AI関連企業の決算開示・ガイダンス発表を通じて、AI需要が依然として強固で、開発に投じられる巨額の支出に対して安心感を与えた企業もあれば、不安視された企業・・・設備投資が巨額なので本当に回収できるのか?という懸念が浮上してきた企業もあります。
これまではAI設備投資を稼いだキャッシュフロー・自己資金で賄っていたのですが、市場調達に変化しつつあり、投資家がリスクを負うようになってきました。ハイテク企業の設備投資のスタイルが変化し、過去のバブル期、リーマンショック以前の調達スタイルである“SPV(特別目的事業体)”を活用して“オフバランスシート”でビジネスを行う例が出始め、目下の状況を不安視するような声が徐々に聞こえてきました。

一連の設備投資ラッシュのそもそもの原因は、ビジネスコストの高さにあります。キャッシュフロー創出力の高い企業にとっても大きな負担なのです。(それだけ需要超過なので設備投資しないといけないわけですが)
今日現在、資本市場から(債券を発行して)資金調達をしてデータセンタービジネスを行うのはオラクルとメタです。いまのところ投資家からの需要は旺盛で、オラクルは180億ドルという起債額の5倍の需要を集め、メタは300億ドルの起債額に対して約4倍の需要を集めることに成功し、債券・クレジット市場は順調に消化しています。上記2社に加え、アルファベットも米国内で175億ドル、欧州で65億ユーロの起債が見込まれています。いわゆるハイパースケーラーと呼ばれる大手企業は、今後2028年までにデータセンターなどのインフラに3兆ドルを投じ、その約半分を稼いだキャッシュフローで補うとみられていますが、残りは社債などの借り入れが重要な資金源になる見通しです。
データセンタービジネスが高コストビジネスであるがゆえ、今後追加債務が必要になる?追加債務が心配?という声が有るのは事実です。伝統的な債務市場に加えて、オフバランスシートを活用してビジネスを行う事を発行体が選択した場合、投資家は内部構造の精査や、その真価をシビアに見始めるかもしれません。

例えばメタのケースでは、調達した債務はメタのバランスシートから除外され、新メガデータセンターとして運営される見込みです。これは見方を変えれば、債券投資家が「データセンター」を新たな投資対象クラスへと見方を変えることで実現するのです。投資家にとって「分散投資」は意味が有ることで、投資先が分散されるのは(投資先が増えることは)非常に大きいです。投資先の市場が拡大することは凄く意味が有ります。
今回メタは、プライベートクレジット投資会社ブルー・オウル・キャピタルと連携し、ハイペリオンと呼ばれる270億ドル規模のデータセンターを共同開発します。WSJ紙が報じていますが、ブルー・オウルが
プロジェクトの80%を所有し、メタが20%を所有しながら長期にわたり、施設の運営・賃貸を担います。
このプロジェクトのための社債は格付け機関S&PによってA+格付けが付与されました。元本と利息の返済能力を重視する債券投資家にとって、今回のA+格付けの債券発行は「非常に魅力的」で(発行時の利回りは6.58%)、格付けが高いのにハイ・イールド債(いわゆるジャンク債)の利回りを得ることができるものでした。

外部資本の活用は、メタにとってウルトラCクラスのもの。恐らく同業他社がどんどん真似するでしょうし、再現性が高いものになると思います。メタはこの先、AIコンピューティングを収益化する前提で運営するわけですが、AIワークロードや利益率が低下した場合、この特別目的事業体(SPV)が1990年代のケーブル敷設・過剰投資を再現する可能性が有り、膨大なデータセンター設備の容量が遊休状態になり、負債が未払いで終わる事態になります。

→ そのリスクが有っても、他社や、スキームをアレンジした投資銀行がこのスキームをマネしない理由は無いです。近い将来、債券発行が相次ぐので、米国債利回り⇔ハイ・イールド債利回りのギャップを注視すべきです。

→ それでも私は株式市場には強気のスタンスです。基本的にポジティブに考えています。

大山季之

大山 季之(おおやま のりゆき)

松井証券マーケットアナリスト
経験から得た幅広いネットワークと確かな知識で複雑な世界情勢を紐解き分かりやすく解説

<略歴>
1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。

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