トランプ支持率急落の未来は株価上昇?インフレ?
2025年11月12日
マーケットアナリスト大山です。今週もよろしくお願いします。
足元、トランプ大統領の支持率が急落しています。
本コラムを11/10に執筆していますが、トランプ氏の支持率は第二次政権発足以来最低の42.9%です。先週末に開示されたミシガン大消費者信頼感指数に於いても共和党支持者の景気・物価に対する見方がだいぶシビアに傾きつつある事が確認できます。
米国で11月4日に、ニュージャージー(NJ)州およびバージニア(VA)州知事選挙、そしてニューヨーク(NY)市長選挙が行われ、いずれも民主党候補が勝利したことが影響しているのかもしれませんが、注目度の高い3つの地方選で民主党候補が連勝した格好です。2026年11月の大統領中間選挙に向けて民主党がどのようなメッセージを発していくのかは依然として不透明ですが、今後のトランプ政権のかじ取り、党の運営でどの様な方向性を打ち出していくのか注目です。
市場でも大いに注目されたのはNY市長選でした。民主党候補のゾーラン・マムダニ氏(NY州議会議員)が、無所属のアンドリュー・クオモ前NY州知事(無所属)、カーティス・スリワ氏(共和党)らを破り、50%以上の得票率を得て勝利しています。本人は「民主社会主義」を標榜していますが、第三者として話を聞く限り、単なる社会主義者のような気も・・・。
マムダニ氏は政策として、家賃規制付きアパートに関する賃料引き上げの凍結、公営食料品店の開設、市営の無料バスの導入、保育料無償化などの生活費対策を主眼に置くとともに、財源として富裕層・大企業増税を掲げ、ラディカル・レフト的な(急進左翼的な)政策を前面に押し出して選挙戦を展開しました。政策の実行・実施に関しては、大半が市長の権限外です。家賃凍結は望めず、市営バスはメトロポリタン交通局が管理しているので市長には発言権は無く、税金と最低賃金は州市営食料品店開設も市議会の承認が必要で、実現可能性が低いのではないか?と言われています。
マムダニ氏の政策に対しては、民主党の中道左派の一部やウォール街、ドナルド・トランプ大統領など複数の異なる立場から批判的な意見が出たものの、近年の大統領選や上下院選などにおいて民主党が苦戦していた労働者層や若年層、目下の政権に大いに不満を抱く有色人種などにも訴求し、支持を伸ばしました。
とはいえ、マムダニ氏の当選はマーケットに影響を与え始めています。NYのoffice REITは賃料低下を警戒し、大きく下落していました。ウォール街の重鎮、JPモルガンのダイモンCEOはNYタイムズ紙によれば、選挙期間中はマムダニ氏の政策を「現実世界では何の意味も持たない」と一刀両断しつつ、選挙で勝ったら、So Be It(支援してもいい)と述べたと伝えています。選挙後、ダイモン氏はマムダニ氏がthe good one(いい人)であることを願っているというコメントも発しています。「選挙結果を受け入れる、それでいいじゃんか」という感じです。既存左派メディアや政治家が大きく騒いでマムダニ氏批判を繰り返す中で、これはこれで大丈夫だと思ったりしました。
VA州知事選は、民主党候補のアビゲール・スパンバーガー氏(元連邦下院議員)が共和党候補ウィンサム・アールシアーズ氏(副知事)を約15ポイントの差をつけて破りました。選挙は主に経済問題に焦点が当たり、トランプ政権の関税政策に伴う物価上昇や連邦職員の削減に伴う失業率の上昇などを批判し、医薬品や医療保険へのアクセスの改善、住宅価格高騰への対応などを柱に据えて選挙戦を展開しました。トランプ氏の経済政策のマイナスの影響が特に強く表れた格好です。
NJ州知事選では、民主党候補のマイキー・シェリル氏(連邦下院議員)が共和党候補のジャック・チャタレリ氏(元NJ州下院院内総務)を10ポイント以上の差をつけて破っています。上記スパンバーガー氏と同様、主として住宅価格や電気代、医療コストの削減などを柱に据えつつ、トランプ政権に対する批判を主軸に選挙戦を展開していました。
勝利のカギは生活費?→問題解決のカギは大きな政府?
地方選3連勝で、一見、民主党が活気を取り戻した・・・かもしれません。トランプ大統領の2期目における最初の主要選挙を制し、重要な勝利を収めたのですから。
この3連勝は、トランプ大統領が進めている政策課題に対抗するのに苦戦してきた民主党に、2024年の敗北からの復活を後押しする可能性があるのでしょうか。
もちろん、2026年の中間選挙まで多くの時間が有り、多くの変化が起こり得るので、このムーブメントが継続するという保証は有りません。しかし3つの地方選に関しては、共通する課題「国民の生活」「生活費」が見えてきたと言えるかもしれません。たとえばマムダニ氏の左派的な選挙運動の根幹は、住宅・食品・育児のコストを引き下げるという約束があり、他地域の穏健な民主党候補にとっても、この課題は勝利につながる争点だと直ぐに理解できたのではないでしょうか。この「生活費問題」は有権者の関心の最上位にあって、ニュージャージー州のシェリル氏、ヴァージニア州のスパンバーガー氏は共に、生活費の高騰への対処を最重要課題として掲げたのですから。
米国主要メディアの出口調査では、3つの選挙すべてにおいて、有権者にとって最も重要な争点が経済と価格の手頃さだったと示しています。CBSニュースの出口調査では、経済を最重要課題とした有権者の過半数が、ニューヨーク市と、ニュージャージー、ヴァージニアの両州で民主党候補に投票したことも、注目すべき点かもしれません。
トランプ政権、共和党にとっても手痛い打撃を受けたのでしょう。先週末、トランプ大統領は関税収入を財源に、国民1人当たり2,000ドル支給すると明らかにしていますが、もともと連邦政府の財源確保のための関税導入だったはずです。ばら撒いたら元も子もない・・・にも拘らず、トランプ氏はSNSを通じて、2,000ドル支給に反対するものは「愚か者」と投稿しています。
冒頭、トランプ氏の支持率が足元で急落してきたことに触れましたが、加えて、地方選挙で負け続けてしまったことで(来年の中間選挙に向けて)焦りが出てきたのではないかと考えています。
来年の重要な中間選挙を前に、民主党は一つの解、有権者のメッセージを手に入れたのかもしれません。同時に共和党にとっては、対抗すべき課題が見えたのだと思います。
共和党・トランプ政権・ベッセント財務長官の掲げる「小さい政府」戦略が「大きな政府」への転換があるのか?この点には注意したいと思っています。
(大きな政府は株価にもの凄くポジティブです。しかし、インフレには非常に注意しないといけません。
ポピュリズム・財政拡張に陥ると、金利が跳ね上がるリスクが有ると言う事を忘れてはいけません。)
大山 季之(おおやま のりゆき)
松井証券マーケットアナリスト
経験から得た幅広いネットワークと確かな知識で複雑な世界情勢を紐解き分かりやすく解説
<略歴>
1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。