株安と支持率低下で、トランプはバラ撒くのか?

2025年11月19日

マーケットアナリスト大山です。今週もよろしくお願いします。 先週のコラムは、11月4日に米国各地で行われた選挙の中から、注目されたニューヨーク(NY)市長選とバージニア(VA)州、ニュージャージー(NJ)州の知事選を含む主要な選挙でいずれも民主党が勝利を収めた件に関して触れました。一般に、大統領選も中間選挙もない年に実施される「オフイヤー選挙」は、前者2つの選挙に比べると注目度こそ一段落ちる一方では有りますが、その後の大統領選挙や中間選挙の行方を占う試金石として一定の意味を持ちます。
今年のオフイヤー選挙は争点が物価高・経済・生活苦であり、来年の中間選挙に向けてどのような含意を残したのかを考えてみました。

要点

民主党がオフイヤー選挙を制したが、勝因は「トランプ無し選挙」を強いられた共和党がコケたから?

年明けに控える「再・政府閉鎖リスク」、民主党はどのように共和党に突っ張っていくのかがポイント

11月4日の大敗・支持率低下の共和党 トランプ氏は バラマキ に頼ることに…?

1992年の大統領選では民主党のクリントン候補が共和党のブッシュ候補に対して(パパ・ブッシュの方です)「It's the economy, stupid!(大事なのは経済だよ、そんなことも分からんのか愚か者!)」という戦略メッセージが展開されていました。このスローガンは当時、ミドルクラスの安定した経済がアメリカの繁栄の鍵だとして民主党クリントン陣営が大統領選で展開した有名なメッセージです。民主党の世論調査によって選挙戦の論点が経済だと見抜き、共和党ブッシュ陣営を大いに叩いた「It's the economy, stupid!」は、今でも選挙戦になると出てくるスローガンで、よく真似て使われます。

さて2025年の11月4日は、どのようなスローガンで表現されたのでしょうか。
26年の中間選挙のみならず、28年の大統領選へのメッセージとして、今回はこのようなスローガンが聞こえてきました。「It’s the Cost of Living, Stupid!」 です。生活費の高騰、生活苦が問題なんだよ、そんなことも分からないのか愚か者!と表現されています。

11月4日は民主党にとって非常に大きな意味を持つ選挙だったと思います。もしかしたら、選挙結果はVA・NJ州知事選のみならず、NY市長選、さらにはそれほど注目されなかったペンシルベニア州最高裁判所選挙、さらにはジョージア州公務員委員会といった選挙でも、生活苦を掲げて戦ったからこそ民主党は勝てた・・・その意味は案外大きかったと思います。

なぜ民主党は勝てたのか?

① トランプ問題を抱えていたのではないか?トランプ抜きの選挙を理解していたのだろうか?

得票結果を見る限り、トランプ氏は不人気で、選挙に出馬していない時は党の足手まといになる・・・?
また、大統領が「出馬していない時」は、共和党は保守派の支持を獲得できない・・・ように見えます。
トランプ大統領の無党派層からの支持率は、大統領就任2期目の早い段階から芳しくなく、彼らの多くは経済政策への取り組みに不満が有り、移民の大量国外追放政策への取り組み方は行き過ぎだと考えています。
出口調査ではVA州では無党派層が有権者の3分の1を占め、知事選では民主党のアビゲイル・スパンバーガー氏が19ポイント差、NJ州でも同様の傾向で、無党派層は31%を占め、民主党のミッキー・シェリル氏が13ポイント差で勝利しました。 注目の選挙で ことごとく共和党が負け、「青の波」つまり、民主党が大勝という結果、知事選では「ふた桁%の開き」があったのはトランプ陣営にとってショックだったと思います。
この2州は所謂「パープル・ステート」、つまり、選挙のたびにどちらの党から知事が出てもおかしくない激戦州とされています。このため、この2つの州知事選は、来年の中間選挙に向けた前哨戦として位置づけられていたのです。加えて、ニューヨーク市長選挙も、「民主社会主義者」を自認するイスラム教徒のゾーラン・マムダニ氏が民主党候補として出馬し、辛勝であります。

選挙スローガンである「生活苦」という訴えが有権者に届かずに共和党が負けたという可能性も大いに有りますが、共和党にとって、これはまさにジレンマ。トランプ氏なら論点をすり替えてメッセージを出すこともできたでしょう。でも今回は出来ませんでした。大統領就任後最初の任期中もそうだったように、大統領選挙のない年には、トランプ氏抜きで戦わないといけない・・・?という状況でありました。少なくとも共和党員なら、この状況を理解しなければならなかったのです。これは来年の中間選挙、そしてトランプ氏が憲法上再出馬できない2028年に向けて注目すべきことかもしれません。

② 民主党は今後1年間、どの有権者層にどんなメッセージを届けるのだろうか?

民主党党内には、どのように党を導いて、手頃なメッセージを作り、その過程でトランプ氏に対抗するかについて、さまざまな考えを持つ人がたくさんいると思うのですが、どのように次の選挙戦を戦うのでしょうか。
もちろん、まだ何も定まっていないのかもしれません。でも、案外時間は無いのです。政府閉鎖の対応を見ても分かるというもので、空の便の大混乱など、出口のないトンネルと揶揄された今回の政治の場外乱闘プロレスは、11月12日夕方、ついに40日以上続いた史上最長の連邦政府閉鎖が終わりを告げました。しかし「つなぎ予算」が認められたのは来年の1月末までなので、11月末のサンクスギビング(感謝祭)→クリスマス→年末年始のホリデー を挟むと、再び政治対立プロレスが始まるのです。
本来であれば、11月4日の大勝利を理解して民主党が今後の方向性を見出すことになればいいと思っていましたが、結局11月4日の選挙で大勝したため、「俺たちはこのまま、トランプに反対して突っ張り続けていればいいのだ」という誤解を生じさせてしまったかもしれません。突っ張り続けると、また「長期間の政府閉鎖になってしまうのです。 

ヒント、、、NY市長選のマムダニ氏の勝利にヒント 若しくは メッセージが有ったのかもしれません。
ブルッキングス研究所が出口調査を経て今回の選挙を総括していますが、今回の選挙は生活苦が争点だと考えられていますが、マムダニ氏の支持層を見ると、明らかに高学歴層に偏っているというのです。
出口調査では、大学卒業層ではマムダニ氏が共和党クオモ候補を57%対38%で上回ったものの、大学卒業以外の層ではマムダニ氏が40%、クオモ氏が48%と、支持率で劣っています。
また投票における所得分布は、より明確な結果が出ていて、クオモ氏は、最低所得層(年収3万ドル未満)の有権者層では48%対42%と僅差で勝利した一方で、市内で最も富裕な有権者層(年収30万ドル以上)では、マムダニ氏を62%対33%で圧倒しました。
マムダニ氏はその間の所得層(いわば中間層で、高学歴層だと理解しています・・・)全てで勝利、特に5万ドルから20万ドルの範囲の有権者の間で最も良い成績を収めています。
また年齢別では、若者層と言える45歳未満の有権者ではクオモ氏を44ポイント上回りましたが、高齢層では11ポイント差で敗北しました。若い有権者ほど(たぶん若い人ほど高学歴)、マムダニ氏の支持率は上がり、30歳未満の有権者では78%を獲得しています。
NY市における選挙はすべて自分事と考える若くて高学歴の有権者が多かったのかもしれませんが、トランプ支持層ともいえる中低所得者層(いわゆるミドルクラス)が軒並みマムダニ票に流れています。①の分析で、トランプ氏に関わりのない選挙では共和党が弱い と言う事を書きました。基本的なことかもしれませんが、メッセージを届けることができた民主党と届けられなかった共和党では結果がきれいに出たと言う事なのでしょう・・・きっと。
突っ張るだけじゃダメで、メッセージを届けないと。 
(なんか今の日本の立憲民主党の様になったらダメですよね。私は基本“ノンポリ”ですが、今の立憲民主は自民党に反対するだけの野党にしか見えなくて、高市政権発足後は、本当に影が薄いです)

やはりバラマキ

先週のコラムで 共和党勝利のカギは生活費?→ 問題解決のカギは大きな政府 と書きましたが、先週末、トランプ政権は来年にも関税収入を財源に、国民1人当たり2,000ドル支給すると明らかにしています。さらに、食糧インフレに対応するため、コーヒー豆やフルーツに課せられる関税の引き下げを明言しています。
共和党の大きな軌道修正と見るべきではないでしょうか。
私は、共和党・トランプ政権・ベッセント財務長官の掲げる「小さい政府」戦略が「大きな政府」への転換の可能性がじわり高くなった?とみています。 大きな政府は株価にもの凄くポジティブですが、リスク資産の価格急騰後、インフレに至る可能性が高いことに注意しないといけません。

大山季之

大山 季之(おおやま のりゆき)

松井証券マーケットアナリスト
経験から得た幅広いネットワークと確かな知識で複雑な世界情勢を紐解き分かりやすく解説

<略歴>
1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。

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