2025年のホリデー消費のヒントを考える
2025年12月3日
マーケットアナリスト大山です。今週もよろしくお願いします。
時が経つのは本当に早く、もう12月、師走です。
師走で気になるのは個人消費の動向です。米国では11月第4木曜日は感謝祭Thanks giving Day(2025年は11月27日でした)と呼ばれる休日で、一般的に、感謝祭の翌日から米国の年末商戦ホリデーシーズンがスタートします。この期間の前後に長期休暇を取る人が非常に多く、年間で最も消費が活発な時期に該当すると言われ、この間の売上は小売店売上全体の大きな割合を占めます。
そして感謝祭翌日には日本でも知られるようになったブラックフライデーセール(値下げによる売り上げ増で企業が黒字になるというのが由来)が各小売店で展開され、クリスマスまでの約1ヶ月間は、ギフト需要の増加と大規模なセール・・・特にオンラインでの売上が過去最高を記録するなど、昨今のアメリカ経済にとって非常に重要な消費シーズンになっています。
今週のコラムでは、2025年のホリデーシーズンから米国消費・経済、投資のヒントを考えていこうと思います。
今週のコラムの要点
I. 2025年米ホリデーショッピングの売上額は初の1兆ドル超え?
II.インフレを加味すれば実質消費は厳しい?米国消費を支えているものは?
III. ショッピング大好き米国人の『K』字型経済の処方箋とは
消費予測
全米小売小売業協会(NRF)2025年の年末商戦期間(11~12月)の消費者調査では、全米の消費支出が初めて1兆ドルを超え、前年比で売上高が3.7%から4.2%増加すると示されています。この金額は、総支出額が1兆100億ドルから1兆200億ドルに上ることを意味します。
NRFは、感謝祭からサイバーマンデーまでの期間に買い物を予定している人数は過去最高の1億8690万人に達すると予想し、「感謝祭の週末5日間は記録的な数の買い物客が訪れることが予想され・・・」と述べていました。
『プロモーションは5日間の連休期間中ずっと行われ、ブラックフライデーは依然として最も買い物客の多い日になる。買い物客の70%(1億3,040万人)が利用し、次いでサイバーマンデー、消費者の40%(7,390万人)が感謝祭翌週の月曜日に買い物をすると予想されている。』
『11月初旬時点で、消費者の58%がすでにホリデーショッピングを開始していると回答、これは過去5年間の傾向と一致。平均すると、ホリデーショッピングをする人は計画していた購入品の約4分の1(26%)を完了しています。』(なるほど、日本でもブラックフライデーのプロモーションが11月頭から流れていたのと同じで、すでに早い段階からショッピングが始まっているのですね。胃袋と同じで、財布は1つ、早く財布を掴んだ小売店が勝者になると言う事でしょうか)
また、オンライン小売のアマゾンは、2025年ホリデーショッピングに関して、シーズンのキーワードとして、予算重視と分散化を挙げています。
アマゾン曰く、商戦は通常夏に始まり(夏にはもう始まっている?)、お客様の14%は早ければ夏には買い物を始め、年末まで続くとのことです。さらに今年は、12月の売上が以前よりも集中すると予想し、サイバーマンデーをはるかに超える勢いを維持していくことが不可欠になっています。このトレンド、買い物をしたいという気持ちを持続させるためのマーケティングが凄く大事と言う事です。
アマゾンは外部のデータ・レポートを引用し、顧客の42%が感謝祭の前までに、27%が感謝祭からサイバーマンデーまでの間にショッピングをすると回答していると述べています。特に、顧客の31%がサイバーマンデーから新年にかけてホリデーショッピングを計画している点を注目点として挙げています。
つまり、購入までの期間が3か月近くにわたると言う事です。顧客が買い物しようと考えてからカートに商品を入れて実際に決済するまでの期間が3か月と長く、その間にいくつかのイベント(ハロウィーン、感謝祭、クリスマスなど)が発生し、気持ちの上でも山・谷を迎えますが、どこで顧客の背中を押すのか?押せるのか?が難しいとしています。
「予算重視」のキーワードに関しては、アンケート調査回答者の59%が、インフレ率の上昇と世界経済の不確実性から、日常的な経費を節約する方法を模索していると記していました。
消費自体は伸びるが・・・
上記NRFもアマゾンも消費は伸びると示していますが、これはあくまでも名目値の話であることには注意が必要です。
消費者物価指数CPIは9月前年比で3%上昇し、インフレの影響を考慮すれば、消費数量は伸びていないのです。消費支出にインフレの影響を考慮した実質的な個人消費でトレンドを考える必要が有るのかまだ分かりませんが、名目賃金の上昇が物価の上昇に追いついていない昨今では、家計の実質的な購買力が低下していることは懸念すべきです。
とはいえ、消費額自体は伸びています。
米国経済は、トランプ関税ショック、物価上昇にもかかわらず、企業のAI関連設備投資急増に支えられて伸びが続き、加えて個人消費も底堅く推移しています。経済拡大のベースに支えられ、株式や不動産と言った資産価格も上昇し、消費に好影響を与えていることも考えられます。この点は、レバレッジが効いているのか?株式等の流動資産の割合等を含めて検証する必要があります。ただ、家計の不動産価格上昇と金融資産の実質価値が10%上昇した場合、米国の家計支出を0.9%押し上げるという調査があります。これはほかの先進国、欧州・日本での波及効果0.3~0.5%程度と比べると非常に大きいです。
リスク資産の上昇に支えられた消費支出が総じて堅調という状況は、別の角度では、金融資産を持っていない中低所得者層の消費が厳しいという現実が見えてきます。
NRFは、消費者心理の低迷(ミシガン大消費者信頼感指数は、消費センチメントは統計開始来の最低水準に沈んでいます)や、連邦政府閉鎖の長期化(給与未払い等のトラブル)、断続的な関税の導入に加え、インフレの影響下であっても、消費者が予想に反して支出を継続していると述べています。
これは米国の消費は総じて堅調に推移しているものの、所得格差の二極化が進行している状況が浮き彫りになっていることではないでしょうか。
NRFのチーフエコノミストは「不動産や株価の上昇などで資産価値を高めている高所得者層が消費を下支えしている。」「節約志向を強めている低所得層の間では、旅行や外食などサービス分野への支出を控え、生活必需品へのシフトが強まっている傾向がある」と指摘しています。
強い米国消費の実態は「K」、その処方箋は?
米国上場の信用情報会社トランスユニオン<TRU>は、11月20日、2025年10-12月期における米国の消費者動向調査を発表し、ホリデーシーズン中のクレジットカード利用を予想したデータを開示しています。これによると、今シーズンのクレジットカード利用は予測値で42%(2024年:38%)、前年より上昇する見込みとのことで、借り入れ・信用を活用しながら消費者がホリデーショッピングへの支出を増やす予定だということが分かります。
トラストユニオン社の調査では、消費・家計の状況が二極化、「K」字型景気が示されています。
金額では1,000ドル以上支出すると回答した人が12%と2ポイント上昇していますが、約半数は100ドルから500ドルの間と回答しました。家計状況調査では、高所得者層では、79%は家計が予想よりも改善あるいは想定どおりと回答したのに対し、低所得者層ではこの割合が51%にとどまりました。
家計悪化はインフレ由来であるという回答が77%に達し、インフレが経済・景気・消費の二極化の要因となっていることが指摘されています。
インフレ懸念では食料品の価格上昇がトップ、懸念度が最も大きく上昇したのは保険(前年同期比43%から47%へ上昇)と医療費(41%から45%へ上昇)で、リビングコストの上昇が喫緊の課題だと言う事が理解できます。
家計の二極化を反映して、クレジットカードに関しても、高所得者向けサービスと低所得者向けサービスの利用状況に大きな差異が生じ、低所得者層の支払い延滞(60日以上延滞)が前年比で増加、ニューヨーク連銀の調査でも足元は債務不履行と見なされる90日以上の延滞率が2025年第3四半期は再び上昇傾向にあることが指摘されています。
FRBは、所得上位10%の富裕層が米国株式の87%を所有し、上位1%が38%を所有していることを公表しています。この富裕層向け、高所得者層に向けた消費提案がキーになってくると考えています。
世界最大級のコンサルティング企業のベインは、世界のラグジュアリー市場が2026年に成長回帰し、3-5%成長で行けると示してきました。(ハイブランド企業の業績予測では、中国需要の回復が大きいのですが)。ラルフローレン<RL>の株価は絶好調で、タペストリー<TPR>も好調(ラグジュアリー市場で勝者となるべき要素をタペストリー社は全部持っている)、LVMH株価も復調傾向にあります。富裕層顧客を抱える企業、カード会社アメリカン・エキスプレスも好調が持続されています。※
このハイブランド、ラグジュアリーブランドへの投資に、2025年のホリデーシーズン&K字型景気への対処法、ヒントが隠されているかもしれません。
- ウォール街のデータでは高額年会費カードの利用客は、低額カードの利用者と比べて約3倍多く支出する傾向があり、富裕層の顧客は高い年会費を支払うことをいとわず、支払いを滞納する可能性も低いため、銀行にとっては優良な顧客層と見ています。アメリカン・エキスプレス<AXP>がプラチナカードの特典を強化し、年会費を695ドルから895ドルに引き上げたところ、新規の申し込み件数が数週間で2倍に増加したというデータもありました。
大山 季之(おおやま のりゆき)
松井証券マーケットアナリスト
経験から得た幅広いネットワークと確かな知識で複雑な世界情勢を紐解き分かりやすく解説
<略歴>
1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。