FXのスキャルピングとは?特徴や注意点、初心者向けではない理由
「スキャルピング」は短期間で利益を狙える可能性があるトレード手法として多くのトレーダーに活用されています。一度は取り組んでみたいと思いながら「リスクが大きい」「初心者向きではない」といった情報を目にして、躊躇している方も多いのではないでしょうか。
本記事では、FXにおけるスキャルピングの特徴や注意点、初心者向きではないと言われる理由について解説していきます。
FXのスキャルピング手法の概要
まずはFXにおけるスキャルピング手法とはどのようなものか、基本的な方法と特徴について解説します。
スキャルピング手法とは
スキャルピングとは、数秒や数分単位で小さな売買を繰り返し、利益を重ねていくFXのトレード手法です。
英語のscalpには「頭皮を剥ぐ」という意味があります。相場から頭皮を剥ぐように、薄い利益を狙っていくのが特徴です。スキャルピングでは、1日に数十回から数百回のトレードを繰り返すことになります。
スキャルピング手法の特徴
スキャルピングは資金効率のよいトレード手法です。得られた利益を再投資することで、短期間で資金を増やせる可能性があります。
また、トレード1回あたりの為替リスクが小さいのも特徴です。スキャルピングはポジションの保有期間が短いため、万が一想定外の方向に相場が動いてもマイナスの影響を抑えやすく、大きな損失を被る可能性は低いといえるでしょう。トレンドに沿う形で売買をすれば比較的大損しにくいトレード手法です。
FXのスキャルピング手法と他のトレード手法の違い
スキャルピングと並ぶ代表的なトレード手法には「スイングトレード」と「デイトレード」があります。スキャルピング手法との違いをそれぞれ見てみましょう。
トレード手法 | スキャルピング | デイトレード | スイングトレード |
---|---|---|---|
取引期間 | 数秒~数分 | 数十分~1日 | 数日~数週間 |
利幅の大きさ(目安) | ~10pips程度 | 10pips~100pips程度 | 100pips以上 |
1日の取引回数 | 数十回~数百回 | 数回〜数十回 | 1日の間に一度も取引しない場合もあり |
ポジションの保有期間 | 数秒~数分 | 数十分〜数時間 | 数日〜数週間 |
重要なポイント | スプレッド、損切り | 損切り、テクニカル分析 | チャート分析、スワップポイント |
スイングトレード
スイングトレードとは、ポジションを数日から数週間にわたって保有し、大きな値幅を狙いにいくトレード手法のことです。中長期的にチャートを観察し、相場の方向性を分析することで、トレンドや動きのクセが見付けやすくなります。
取引機会は限られるため、チャートに張り付く必要がなく、余裕を持って取引できるのがスイングトレードの特徴です。普段忙しいという人も、本業や生活リズムに支障をきたすことなくトレードに取り組めるというメリットがあります。
また、スワップポイントを狙うことも可能です。スワップポイントとは、FXで売買をする二国間の通貨の金利差によって得られる利益のことです。高金利の通貨を買い、低金利の通貨を売った場合に受け取れます。スワップポイントは基本的に毎日受け取れるため、ポジション保有期間が数日間にわたることもあるスイングトレードでは、継続的にスワップポイントが受け取れる可能性があるのです。
ただし、スイングトレードは、スキャルピングに比べると取引回数が少なくなります。また、1回の取引で大きな利益を狙うことになるため、1回の取引で背負うことになるリスクも大きくなってしまうのです。ポジション保有期間が長くなるため、スキャルピングより相場の急変に遭遇する可能性も高いでしょう。
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デイトレード
デイトレードは、数時間から1日で取引が完了するトレーディング手法です。ポジションの保有時間は数十分から数時間程度で、基本的に日をまたいで取引することはありません。そのため、スイングトレードに比べると拘束時間が短く、トレードにあまり時間を割けないという人にも取り組みやすいのが特徴です。
また、スキャルピングに比べるとポジション保有期間が長いため、比較的大きな利幅を狙える可能性があります。
デイトレードの大きなメリットは、オーバーナイトリスクがないことです。FXの相場では、雇用統計や物価指数などの経済指標の発表により、深夜・早朝に相場が急変動することがあります。日をまたいでポジションを保有すると、寝ている間に価格が大きく変動しロスカットされているという状況もあり得るのです。しかし、デイトレードの場合、その日のうちに取引を終えるため、そのような心配は必要ありません。
- ロスカットとは、証拠金があらかじめ設定した水準に抵触した際に、損失拡大の防止を目的として、保有する全てのポジション(新規で買建または売建し、決済せずに保有している通貨 )を決済することを意味します。
ただし、デイトレードでは適切なタイミングで売買をしなければ、損失が拡大する可能性があるため、定期的にチャートを確認するように心がけましょう。
また、デイトレードではトレンドに沿って取引するのが基本です。トレンドに強いテクニカル分析などの方法を用いて、的確にトレンドを把握する必要があります。特に、日足ベースでのトレンドを確認し、そのトレンドを基本としながらも、更に30分足や60分足を用いて1日の中でのトレンドを確認するようにしましょう。
スキャルピング手法がFX初心者におすすめできない3つの理由
スキャルピング手法は短期間で利益を積み重ねられる可能性がある反面、特有の難しさがあります。初心者は安易に手を出さないほうがよいかもしれません。
トレード経験や分析力が必要になるため
スキャルピングは一回あたりの取引時間が短いため、FXに割ける時間が限られた人でも取引しやすいという側面があります。一方、チャートを注視しながら細かい値動きに反応して売買を判断する必要があるため、高い集中力が必要です。また、チャート上における節目となる価格(過去の高値や安値の水準等)を超えるないしは割り込む場面というのは短期的にトレンドが出やすかったりもします。効率的に利益を上げるには素早い判断や経験、知識が求められます。適切なタイミングで損切りができなければ、損失が積み重なってしまうこともあるでしょう。
取引中はトレード画面から離れられず、精神面や体力面での負担が大きいため、スキャルピングは上級者向けのトレード手法といってもよいかもしれません。
スキャルピングで利益をあげたい場合には、テクニカル分析の手法を身につけることが有効です。理論に基づいてチャートを分析することで、勘や運に頼らず、相場を見極めることができるでしょう。
安定した通信環境を整える必要があるため
小さな値動きを狙って取引をするため、安定した通信手段が必要となるという点も、スキャルピングが初心者におすすめできない理由の一つです。
通常、FXの注文は、注文ボタンを押したタイミングでは約定されず、インターネットを経由してFX会社のサーバに着いてから処理されています。そのため、通信が不安定になっているときには、発注時の提示レートと、実際の約定レートに価格差が生じる「スリッページ」 と呼ばれる現象が生じる可能性があるのです。想定外の価格で売買することにより損失が出る可能性もあります。
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少額取引では稼げないため
少額で投資することで、リスクを最小限に抑えながらFXを始めたいと考える人も多いでしょう。しかし、スキャルピングを使って取引する場合、少額の投資でまとまった利益を実現するのは難しいかもしれません。
FXでは1回の取引ごとに「スプレッド」と呼ばれるコストを支払う必要があります。スプレッドとは、為替レートの売値と買値の差のことです。スキャルピングは基本的に1日あたり数十回〜数百回取引を繰り返す手法のため、スプレッドの負担も大きくなる傾向があります。しかし、少額取引で狙える利益の規模は限られるため、結果的にスプレッドによる手数料負担が利益を上回ってしまい、思ったように稼げないということがあり得るのです。
スキャルピングで利益をあげるためには、なるべくスプレッドの負担を減らす必要があります。スプレッドは通貨ペアやFX会社によって異なるため、工夫次第で安く抑えることができます。
FX初心者はスキャルピング以外のトレード手法を使って取引経験を積もう
スキャルピングは短期間で売買を繰り返すトレード手法です。一度の取引で大きな損失を被る可能性は低く、うまく立ち回れば利益を積み重ねることも可能となります。
しかし、常にチャートを注視し、利益が出そうなタイミングを狙ってエントリーする必要があるため、判断を少しでも誤ると損失が出やすいという側面もあります。少額取引では利益が出しづらいということを踏まえると、FX初心者にはあまりおすすめできないトレード手法です。
FXにはデイトレードやスイングトレードといった、より長いスパンで取引する手法があります。FX初心者はまずこれらのトレード手法を学び、取引経験を積んだほうがよいでしょう。
<監修者>
川口一晃
<プロフィール>
1986年銀行系証券会社に入社。銀行系投資顧問(現・三菱UFJ国際投信)や三洋投信で11年間ファンドマネージャーを務める。2004年10月に独立してオフィスKAZ代表取締役に就任。テレビ番組やラジオなどメディア出演は多数。現在、FMナック5「お金の世界の歩き方」でパーソナリティを務める。「SMAP×SMAP」では木村拓哉氏とも対談。著書も多数。また、テレビ朝日のドラマ「アイムホーム」をはじめ、フジテレビの月9のドラマの監修も担当。行動経済学学会会員。