トランプ新政権人事で不安要素が晴れ、年末ラリーへGO!
11/18-11/22 先週の振り返り
米国株、S&P500は5連騰、NYダウは高値更新で、高値圏もみ合いの展開が続いています。
前週の金融当局高官の“タカ発言”、ウクライナとロシアの戦闘を巡る地政学リスクが重しになったものの、米国株の“エヌビディア離れ”や、米国債利回りの落ち着きなどが株価をサポートしたように感じます。
米10年債利回りと、米シティグループが算出しているエコノミックサプライズインデックスを並べてみると、良好な経済指標の開示が一服し、いったん金利上昇は小休止しそうにも見えます。金利上昇が小休止するなら、株価にはポジティブです。
今週のコラムは、金利上昇が止まった背景を紐解きながら、今後の相場について考えていきます。
サプライズインデックス・米10年債利回り
出所:Bloombergより松井証券作成 期間:2023/11/27-2024/11/22(日次データ)
11/5以降はトランプラリーに支えられて株高。足元は一服していますが、年末に向けて金利上昇が一服してきたことで、年末株高『株高の年末ラリー』の可能性の芽が出てきたように感じます。
個人的には、トランプ新政権の主要閣僚人事がほぼ固まり(米通商代表部USTR以外が固まった)、市場が最も嫌いな「分からないこと」が晴れ、不安要素が無くなったことが大きいと感じます。
第2次トランプ政権の主要閣僚人事
新トランプ政権の最大のリスクはインフレです。トランプ氏の選挙公約にある、追加関税(輸入物価上昇が販売価格に転嫁されて値上げ)・移民排除(安価な労働力を確保出来ない)はどちらもインフレ的です。またトランプ氏が公約している減税も景気過熱の可能性が有り、インフレに繋がりかねません。
しかし、主要閣僚人事を見ると「もしかして…実は?」と感じてしまうのです。
役職 | 氏名 | 備考 |
---|---|---|
副大統領 | J・D・バンス | 「ヒルビリーエレジー~アメリカの繁栄から取り残された白人たち~」を執筆 |
大統領 首席補佐官 |
スーザン・ワイルズ | トランプ陣営の選挙対策本部長、お目付け役 |
国務長官 | マルコ・ルビオ | 対中・対イラン強硬派、親日派 |
商務長官 | ハワード・ラトニック | 米投資銀行キャンター・フィッツジェラルドのCEO |
財務長官 | スコット・ベッセント | 投資ファンド経営、減税と関税が優先事項 |
政府効率化省 | イーロン・マスク | トランプ陣営に大口献金 |
USTR | - | - |
- 大統領首席補佐官 スーザン・ワイルズ氏
米連邦政府は、「行政府」、「立法府」、「司法府」の3部門で構成されています。この行政部門トップであり、政権の要のポストである首席補佐官に、トランプ陣営で選挙対策本部長を務めた女性、スーザン・ワイルズ氏を起用すると発表、初の女性補佐官が誕生します。この主要閣僚人事が一番の肝だったのではないかと感じます。
彼女を形容する言葉には枚挙にいとまがなく、タフ(力強く)・クレバー(賢く)・イノベイティブ(革新的・改革的)で広くリスペクト(尊敬)される人物で、選挙期間中においてはトランプ氏から“過激な発言をする人物を遠ざけた”人物と言われています。要するに『猛獣つかい』『お目付け役』であり、スーザンがジャイアン化したトランプ氏に最も近い立場で政権を支えるのは、非常にポジティブに感じます。 - 国務長官 マルコ・ルビオ氏
ほか行政部門では、国務長官に対中・対イラン強硬派で知られるマルコ・ルビオ氏を指名しました。マルコ・ルビオ氏は中国を「これまでに直面した中で最大かつ最先端の敵」と表現し、中国側もこれを敵視し、ルビオ氏個人に対して入国禁止の制裁を科しています。彼は中国から出入り禁止を喰らっています。
このアメリカ第一主義の急先鋒に対する人事は国際問題をエスカレートさせ、結果的にインフレが助長されてしまうリスクがありますが、商務長官に任命されたハワード・ラトニック氏には少し期待したいところです。 - 商務長官 ハワード・ラトニック氏
ラトニック氏は関税の引き上げを主張してきたことで知られ、トランプ氏の下で関税と貿易政策で中心的な役割を担うとみられます。選挙期間中にバイデン政権を非難したコメントの中で「国民に対して最も卑劣なことは高インフレ」と述べ、関税政策を中心に主導する立場ではあるものの、是是非非ともとれる「米国製と競合しない製品には関税を課すべきではない」などの発言をしています。この言葉を信じるならば、期待大といったところです。 - 財務長官 スコット・ベッセント氏
週末は最後の主要ポスト、財務長官にスコット・ベッセント氏の就任がアナウンスされました。
前述のラトニック氏はウォール街の人物で、米証券会社キャンター・フィッツジェラルドの最高経営責任者(CEO)でありますが、財務長官に就くベッセント氏もウォール街出身です。マクロヘッジファンド運営会社キー・スクエア・グループを経営し、以前は著名投資家ジョージ・ソロス氏の資金運用に携わっていたことがある人物です。ロンドンに住みながら1992年には英国ポンドに売りを浴びせ、10億ドル相当を稼いだドラッケンミラーチームの一員だったのです。現在、米通貨政策の後押しを支持、ドル安は経済にとって良いという信条を掲げていると見られており、ウォール街でも予測可能性と安定性を求める投資家から早くも注目されています。
ベッセント氏は選挙期間中、『トランプ氏が「規制緩和、低コストのエネルギー、低税率による新たな黄金時代」をもたらす』と有権者に呼びかけていたのですが、彼の主張は3-3-3プランと呼ばれ、
①財政赤字をGDP比3%内に抑える、②GDP年率3%成長、③300万バレルの増産
の3つであり、原油価格低下と一定の財政規律を示唆するものです。(また最近のWSJ紙に最近寄稿した論説記事には、特に銀行融資とエネルギー生産の促進に向けた税制改革や規制緩和を主張している。)
3-3-3プランは米長期金利の上昇に歯止めをかけるものとして期待が出来そうで、実際のところ債券市場は早くも織り込みに行っているように見えますし、このままいけば米10年債利回りも4.0%-4.6%のレンジに収れんしていくのではないか? と考えています。
このように、新トランプ政権の主要閣僚メンバーを見ると、過激すぎる人物は主席補佐官のスーザンが待ったをかけ、対中強硬派のマルコは仕方がないとしても、ラトニック氏は我々が考えているほど通商政策強硬派でもなく、財務長官のベッセント氏の3-3-3プランはインフレ抑制的なロジック。
これだけ見ると、年末ラリーに期待しても良いのではないか?と思ってしまいます。
少し気が早いが、ハネムーン期間後の相場は?
ここでいう“ハネムーン期間”とは、政権交代後、新政権発足から最初の100日間を指します。
発足直後の新政権は支持率が高いことが多く、国民・マスコミとの関係を甘い新婚期(ハネムーン)に見立ててこう呼びます。米国では国民も新政権が軌道に乗るまでにある程度時間がかかることを理解しているので、100日の期間中は、新政権に対する過度な批判を止め、「お手並み拝見」とばかりに様子見するという慣習、紳士協定があります。
逆に言えば、100日の間に目に見える成果を出して、“ロケットスタート”を決めてやろうと考えるはずではないでしょうか。
年明け1月にはトランプ政権が発足しますが、政権発足から100日目にあたる4月末あたりに向けて最初に取り組む選挙公約は…いったい何になるのでしょう…。
今回の選挙戦はバイデン政権オフのレガシーとの戦いで、トランプ氏は「不法移民問題・反移民」とインフレ問題・経済問題・反エリートを並列で述べていました。民主党への批判を考えれば、次期政権にとって「移民問題」が一丁目一番地となりそうです。そこで春に向けて、大規模な不法移民の強制送還作戦を始めることがあるかもしれません。
移民排除は安価な労働力を失う事であり、賃金上昇の危険性を併せ持つものです。このインフレ的な政策対応を考えると、将来の関税強化と併せて市場が金利上昇圧力を感じてくるかもしれません。
移民制限はインフレを再燃させる可能性が高い。その場合は、米国の金利に上昇圧力がかかり、株価には下方プレッシャーがかかることに留意すべきだと考えています。このようにハネムーン期間に始まる移民排除の動きから金利上昇が意識されることが株式市場の最大のリスクになると思っています。
大山 季之(おおやま のりゆき)
松井証券マーケットアナリスト
経験から得た幅広いネットワークと確かな知識で複雑な世界情勢を紐解き分かりやすく解説
<略歴>
1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。