為替介入とは?実施されるとどうなる?仕組みやメリットデメリット、過去の実例をわかりやすく解説

2025/6/6

歴史的な円安水準が続く中、「為替介入」という言葉をニュースや新聞などで目にするようになった人もいるでしょう。しかし「為替介入の仕組みがわからない」「自分たちの生活や投資にどのように影響するのかわからない」と疑問を感じている人も少なくありません。

本記事では、為替介入の基本的な仕組みからメリット・デメリット、FX取引への影響まで、個人投資家が知りたい情報をわかりやすく解説します。日々流れている為替・経済情報への理解を深め、投資判断に活かしたい人はぜひ参考にしてみてください。

為替介入とは?

為替介入とは、為替相場の安定を目的として政府・中央銀行が通貨を売買することを指します。正式名称は「外国為替平衡操作」です。

為替介入の仕組み

為替介入とは、政府や中央銀行が外国為替市場で自国通貨や外国通貨を売買し、為替レートに影響を与える手法です。

例えば、ドル円相場で円安が急速に進みすぎていると判断した場合、政府・中央銀行は市場でドルを売って円を買う「ドル売り・円買い介入」を実施します。これにより、市場に出回るドルの量が増える一方で、円の量は減るため、円の価値が相対的に高まり、円高(ドル安)方向に動きやすくなります。反対に、円高が進みすぎている場合に実施するのは、「円売り・ドル買い介入」です。

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為替介入は財務大臣の指示に基づいて行われますが、実際に通貨を売買するのは日本銀行です。日本銀行の為替課は市場の動向を日々監視しており、迅速に介入を実行する体制を整えています。

なお、為替介入に使われる資金は、財務省所管の「外国為替資金特別会計(外為特会)」から拠出されます。この外為特会は、為替相場の急激な変動に対応するために設けられている特別な会計制度です。

為替介入の目的

為替相場の急激な変動を抑制し、経済の安定を図ることが為替介入の主な目的です。

為替レートは、輸出入企業の業績や物価を通じて、経済全体や私たちの生活に影響を与えることが少なくありません。例えば、過度な円高は、日本の輸出産業にとって製品の価格競争力を低下させ、業績悪化につながる可能性があります。一方、急速な円安は、輸入品の価格上昇を通じて国内の物価を押し上げ、家計の負担を増加させる要因となります。

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為替相場の過度な変動は、企業や個人の経済活動を不安定にする可能性があるため、適切な為替水準を維持するために為替介入が実施されるのです。

過去に行われた為替介入

過去に行われた為替介入の事例を知ることは、今後の市場動向を予測するうえで参考になります。主な為替介入の事例を振り返ってみましょう。

直近の注目すべき事例としては「2022年9月の円買い介入」が挙げられます。急速な円安が進行し、1ドル=145円台まで下落したことを受け、政府・日銀は24年ぶりとなる「ドル売り・円買い介入」に踏み切りました。この介入は9月から10月にかけて断続的に行われ、介入総額は約9.1兆円に達しました。

また、2024年4月に実施された大規模な円買い介入は記憶に新しいところでしょう。日米の金利差などを背景に円安が一段と進み、1ドル=160円台と34年ぶりの円安水準まで下落したことを受けて、政府・日銀は4月から5月にかけて、総額約9.7兆円という過去最大規模の介入を実施しています。

その後も円安圧力は根強く、同年7月にも約5.5兆円規模の介入が行われたと発表されました。2024年の一連の介入総額は、2022年を上回る規模となっています。

介入時期 介入内容 金額 背景
1995年2月~9月 円売り・ドル買い 約4.9兆円 円高是正、輸出競争力の維持
2003年1月~2004年3月 円売り・ドル買い 約35兆円 デフレ脱却、輸出促進
2011年3月~10月 円売り・ドル買い 約13.2兆円 東日本大震災後の円高是正
2022年9月~10月 ドル売り・円買い 約9.1兆円 円安是正
2024年4月~5月 ドル売り・円買い 約9.7兆円 円安是正
2024年7月 ドル売り・円買い 約5兆円 円安是正

為替介入のメリットとデメリット

為替介入は経済安定化への寄与が期待される一方で、いくつかの課題も指摘されています。メリットとデメリットを整理してみましょう。

為替介入のメリット

為替介入は、急激な為替変動を抑制することで、経済の安定や家計の負担軽減に寄与するというメリットがあります。

例えば、急激に円安が進行すると、海外からの輸入に頼る食品や燃料、日用品などの価格が上昇し、家計への負担増につながるケースが少なくありません。しかし、為替介入によって円安の進行を食い止めることができれば、物価上昇圧力を和らげる効果が期待できます。

また、企業にとっても為替相場の安定は重要です。企業は通常、事業計画を策定する際に「想定為替レート」を設定し、収益やコストの見通しを立てています。しかし、実際の為替レートが想定を大きく上回ったり下回ったりすると、収益やコストに予期せぬ影響が生じます。その結果、計画の見直しを迫られることが少なくありません。

例えば、輸出企業にとって急激な円高は、外貨建ての売上を円に換算した際の金額が減少し、収益を圧迫する要因となります。一方、輸入企業では急激な円安が原材料や製品の仕入れコストを増加させ、利益率を低下させる可能性があります。

為替変動が激しい場合、将来の収益やコストの見通しが不透明となり、投資や採用といった長期的な経営判断を慎重に行わざるを得なくなることもあるでしょう。

為替介入のデメリット

為替介入には、介入の効果が一時的である可能性があり、長期的な為替トレンドそのものを変えることは難しいというデメリットがあります。

為替相場は、日米の金利差や経済成長率、貿易収支など、さまざまな要因によって変動しています。例えば、アメリカの金利が高く、日本の金利が低い状態が続くと、多くの投資家は円を売ってドルを買おうとするため、ドル円相場は自然と円安ドル高になります。

こうした大きな流れがある中で、日本政府が一時的に円を買っても、またすぐに円安傾向に戻ってしまう可能性があるのです。

また為替介入には多額の資金が必要です。「ドル売り・円買い介入」の場合、政府が保有する外貨準備(ドルなど)を取り崩して円を買い、「ドル買い・円売り介入」の場合は政府短期証券を発行して調達した円を売却し、ドルを買います。いずれも外国為替資金特別会計の資金で行われるため、為替介入ができる範囲には限りがあるのです。

さらに、為替介入は他国との経済関係に影響を及ぼす可能性があります。自国通貨の為替レートを意図的に操作する行為は、貿易相手国などから「通貨安誘導」として批判を招くことが少なくありません。特に大規模な介入や、国際的な合意に基づかない一方的な介入は、国際的な信頼を失うリスクがあります。

為替介入がFXに与える影響とは?

FX取引を行っている方にとって、為替介入は無視できないイベントの一つです。

為替介入が実施されると、外国為替市場では短期間で為替レートが急激に変動します。ドル円が介入の対象になることが多く、円買い介入が行われた場合、それまで続いていた円安トレンドが急に円高へ転換することも珍しくありません。

持続性がなく、すぐに元のトレンドに戻ることも多いものの、介入が発表された直後は、数分のうちに数十pips、場合によっては数百pipsといった大きな値動きが発生します。

為替介入時(2024/7/11)の実際のチャート

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短期的なトレードで利益を狙うトレーダーにとっては大きなチャンスとなりえますが、予想と逆方向にレートが動いた場合、ロスカット(損失が一定水準まで広がった場合に、保有ポジションが自動的に決済されること)が発生するリスクがあります。

トレーダーが為替介入に対して適切に対応するためには、事前の情報収集とリスク管理が欠かせません。例えば財務大臣や日銀総裁など政府要人の発言は、為替介入の可能性を探る上で重要なヒントとなります。

「急速な変動は望ましくない」「あらゆる手段を排除しない」など、いわゆる「口先介入」が頻繁に見られる場合は、為替介入のリスクが高くなっていると考えて良いでしょう。

また、過去に介入が行われたレートを意識しておくのも有効です。「1ドル=160円」といったキリの良い数字や、政府・日銀関係者が言及する水準などが目安となることがあります。

為替介入が警戒される局面では、保有するポジションの量を抑えたり、損切りライン(逆指値)をあらかじめ設定しておいたりするなど、リスク管理を徹底しましょう。介入のリスクが高まっているタイミングでは、あえてポジションを持たないというのも一つの方法です。

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為替介入に関するよくある質問

為替介入についてよくある質問をまとめました。疑問点を解消し、理解を深めましょう。

為替介入すると株価はどうなりますか?

為替介入が株価に与える影響は、介入の内容やタイミングによって異なります。例えば「円買い介入(ドル売り・円買い)」が行われて円高が進むと、自動車や電機といった輸出企業の利益が圧迫されるとの見方から、株価が下がることがあります。実際に、2024年7月12日には、為替介入(ドル売り・円買い)の影響もあり、日経平均株価は1,033円下落しました。

一方、輸入品を多く取り扱う企業にとっては、円高により仕入れコストが下がるため、株価が上昇する場合も少なくありません。

ただし、株価は為替以外にも国内外の景況感や企業業績など、多くの要素に影響されて動くため、為替介入だけで株価を予測するのは難しいと考えたほうが良いでしょう。

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為替介入の3ルールとはなんですか?

「為替介入の3ルール」とは、国際通貨基金(IMF)が定めている、変動相場制の国における為替介入のガイドラインです。

「半年で3回以内」「1回あたりの介入は3営業日以内」といった内容が含まれていますが、厳密なルールではなく、あくまで過去の慣行などから市場関係者の間で意識されている目安に過ぎません。実際の相場を見ながら、為替介入の可能性を判断しましょう。

為替介入時の投資で注意すべき点はなんですか?

為替介入が行われる局面では、市場の急変動に備えてリスク管理に注意しましょう。

為替介入は予告なしに実施されることが多く、発動されれば為替レートが短時間で大きく動きます。FX取引はもちろん、為替変動の影響を受けやすい金融商品(例えば、外貨建て資産、輸出入関連企業の株式など)に投資している場合は、予期せぬ損失を被るケースが少なくありません。

ポジション調整や逆指値注文(現在の為替よりも不利なレートを指定して発注する注文方法)などを活用して損失をコントロールしましょう。

円高・円安が進んだら為替介入に要注意

為替介入とは、急激な為替相場の変動を抑えるために政府や中央銀行が市場に介入し、為替レートの安定を図る施策です。実際の介入は大規模に行われることが多く、市場の流れを一時的に大きく変える要因にもなり得ます。

為替レートが急速に円高や円安に振れた際は、為替介入の可能性を意識しておくことが大切です。特に、FX取引を行っている場合は、要人発言や関連ニュースを日頃からチェックし、急なレート変動に備えたポジション管理や損切り設定をしておきましょう。

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