ボラティリティとは?株やFXにおける意味や種類、投資に活かすポイント
ボラティリティとは、株価や為替などの価格がどれくらい大きく変動するかを示す度合いのことです。金融商品の取引において、投資判断やリスク管理をする際に利用されます。
本記事では、投資の基本用語でもあるボラティリティの基本的な意味や種類、実践的な活用方法を解説します。
ボラティリティとは?
ボラティリティ(Volatility)とは、金融商品の価格変動の度合いを表した指標です。省略して「ボラ」と呼ばれることもあります。価格の動きが大きい状態を「ボラティリティが高い」、反対に価格の動きが小さい状態を「ボラティリティが低い」と表現するのが一般的です。つまり、市場の不安定さやリスクの大きさを数値で示したものであり、多くの投資家が投資判断の参考にしています。
ボラティリティは株式やFXだけでなく、債券、商品(コモディティ)など、価格が変動するあらゆる金融商品について用いられる指標です。ただし、対象となる市場の特性によって、ボラティリティが持つ意味合いや分析・活用方法は少しずつ異なります。
株式投資におけるボラティリティ
株式市場において、ボラティリティは個別銘柄や市場全体(株価指数など)の価格変動の激しさを示しており、リスクとリターンの関係を測る基準となります。
一般的に、株価が低い銘柄、いわゆる「低位株」は、少しの値動きでも価格変動率が大きくなるため、ボラティリティが高くなりやすい傾向があります。例えば、100円の株が10円動くと変動率は10%ですが、10,000円の株が10円動いても変動率は0.1%に過ぎません。同じ値幅の変動でも、株価水準によってボラティリティは変わります。
市場での取引量が少ない「流動性」が低い銘柄も、ボラティリティは高くなる傾向があります。流動性が低い銘柄は売買の相手が見つけにくく、大きな注文が成立すると株価が急激に変動することがあるためです。
また、株式市場のボラティリティ(価格変動の度合い)を測る代表的な指標としては恐怖指数(VIX指数)が参考にされます。
ボラティリティが高い銘柄
短期間で価格が大きく上下する銘柄は「ボラティリティが高い銘柄」とされ、スキャルピングやデイトレードといった短期売買で利益を狙う投資家に好まれる傾向があります。
新しい技術やサービスで急成長を目指す新興市場の銘柄や業績予想の修正、新製品の発表といったニュースに株価が敏感に反応する銘柄は、ボラティリティが高くなりやすいです。ボラティリティの高い銘柄を探したい場合は、証券会社が提供するWebサイトや取引ツールで「株価変動率ランキング」や「出来高急増ランキング」などを確認すると良いでしょう。これらのランキングは、その日に大きく動いた銘柄や取引が活発化した銘柄を示しており、短期的なトレード対象を見つける際の参考になります。
株式ランキング 出来高急増 | マーケット情報FXにおけるボラティリティ
FX(外国為替証拠金取引)において、ボラティリティは為替レートの変動率を示しており、取引のリスクを判断する目安として用いられます。
FXでは通貨ペアによってボラティリティが異なり、米ドルや日本円、ユーロといった「メジャー通貨」はボラティリティが比較的安定している傾向があります。
一方で、トルコリラや南アフリカランドなどの「マイナー通貨」は、市場参加者が少なく流動性が低いため、ボラティリティが高くなりがちです。ボラティリティが高い局面では売値と買値の差であるスプレッドが広がる傾向があるため、取引コストにも注意しなければなりません。
さらにFXのボラティリティは、取引が行われる時間帯や各国の経済指標の発表といった外部要因によっても大きく変化します。
ボラティリティが高い通貨ペア
ボラティリティの高さには、流動性が大きく関係しているといわれています。流動性とは、取引のしやすさといえるもので、流動性が低い場合には売買が成立しにくく、高い場合には売買が成立しやすくなります。
米ドルや日本円のようなメジャー通貨と比べると、メキシコペソや南アフリカランドのようなマイナー通貨は、市場参加者が少ないため、流動性が低くなります。流動性が低い場合には、売買の相手が限られるため、市場の実勢価格から乖離した価格で約定することがあり、結果としてボラティリティが高くなりがちです。
ボラティリティが高い時間帯や時期
FXでは、「ロンドン時間」と呼ばれる日本時間の17時頃~翌3時頃(サマータイム16時頃~翌2時頃)や、「ニューヨーク時間」と呼ばれる日本時間の22時頃~翌7時頃(サマータイム21時頃~翌6時頃)はボラティリティが高くなる傾向にあります。上述した流動性の低い通貨のボラティリティが高いというケースと違い、流動性のある通貨であっても、時間帯によってボラティリティが高くなるということです。
特に、22時頃~翌3時頃(サマータイム21時頃~翌2時頃)の時間帯は、世界有数の為替市場である、ロンドン市場とニューヨーク市場が同時に開いているため、1日の中で最もボラティリティが高くなるといわれています。
反対に、ボラティリティが低くなる傾向にあるのが、日本時間の9時~16時です。この時間帯は、基本的に日本やオセアニア圏のトレーダーしか取引に参加していないことが多く、取引量が比較的少なく、予想外の価格変動が起きるリスクは低くなります。
また、年間を通して、米雇用統計や失業率など注目度の高い経済指標が発表される日は特にボラティリティが高くなる傾向があります。
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経済指標カレンダー | マーケット情報ボラティリティが高い・低いとどうなる?
ボラティリティの高低は、投資戦略を立てるうえで無視できない要素の一つです。ボラティリティが高い場合と低い場合、それぞれのリスクとリターンについて解説します。
ボラティリティが高いとリスクもリターンも増える
ボラティリティが高い状態では、株価や為替レートが大きく変動しやすくなっています。短期間で大きな利益を得るチャンスが多い反面、予測と反対方向に価格が動いた場合には、短期間で大きな損失を被るリスクがあります。
したがって、ボラティリティが高い金融商品は短期売買に適していますが、取引に際してはリスク管理を徹底する必要があります。例えば、ポジションを持つと同時に「価格がここまで下がったら決済する」という損切り注文を必ず設定することで、想定以上の損失を防げる可能性があります。また、通常よりも取引する金額を少なくすることもリスク管理の方法としては有効です。
ボラティリティが低いと安定しやすい
ボラティリティが低い状態では、価格の変動が小さく、相場の先行きがある程度予測しやすいため、安定的な運用がしやすいと言えます。
値動きが穏やかなため、短期的に大きな利益を狙うのは難しいですが、その分、想定外の急落によって大きな損失を出すリスクも抑えられるでしょう。ボラティリティの低い相場・金融商品は、配当や株主優待を目的とした投資や、コツコツと資産形成を目指す積立投資など、中長期的な視点での投資に向いています。
ただし、普段はボラティリティが低い銘柄や通貨ペアでも、企業の決算発表や地政学リスクの高まり、要人発言(中央銀行総裁の発言など)といった外部要因で、突発的にボラティリティが急上昇する場合があるため注意が必要です。
指標としてのボラティリティの種類
ボラティリティには、大きく分けて「ヒストリカル・ボラティリティ」と「インプライド・ボラティリティ」の2種類があります。それぞれの意味と特徴を理解しておきましょう。
ヒストリカル・ボラティリティ(HV)
ヒストリカル・ボラティリティ(Historical Volatility、HV)は、過去の一定期間における価格変動率をもとに算出される指標で、「歴史的変動率」とも呼ばれます。
データのばらつき度合いを示す「標準偏差」を用いて算出されるのが特徴で、直近の相場がどの程度不安定であったかを客観的に把握できます。
ただし、HVはあくまで過去の実績に基づいた数値であり、将来の価格変動を直接的に予測するものではない点には注意が必要です。
インプライド・ボラティリティ(IV)
インプライド・ボラティリティ(Implied Volatility、IV)は、市場に参加している投資家が、将来の価格変動がどの程度大きくなると予想しているかを示す指標で、「予測変動率」ともいわれます。
インプライド・ボラティリティは、株式や株価指数などの原資産を対象としたオプション取引の価格から逆算して算出します。
相場の先行きに対する不透明感や、重要な経済イベントへの期待・不安といった市場心理が数値に反映されやすい特徴があり、オプショントレードや高度なリスク管理に活用されます。
ボラティリティを投資に活かす方法
ボラティリティの概念や分析指標を理解したら、実際の投資にどう活かすかを考えてみましょう。ここでは4つの実践的な活用方法を紹介します。
利確や損切りの目安にする
ボラティリティは利確ポイントや損切りポイントを見極める目安として役立ちます。利確とは利益が出ている状態で保有している通貨ペアを決済し、利益を確定させることを指します。反対に、損失が出ている状態で自ら決済し、損失を確定させるのが損切りです。
例えば、過去数日間のボラティリティの平均値を確認し、その平均値が同じくらいであれば、今日も平均値程度の値動きになる可能性が高いと予測できます。ボラティリティが高い局面では、想定以上の価格変動が起こりやすいため、利確や損切りの値幅をある程度広めに設定する必要があります。反対に、ボラティリティが低い局面では価格が一定の範囲で動く傾向にあるため、利確のポイントを狭めに設定し、利益を小さくコツコツと積み上げることを考えたほうが良いでしょう。
ボラティリティだけでは値動きが大きいというところまでしか予測できませんので、RSIやMACDなどのテクニカル指標を活用することでより精度の高い取引判断に繋げることができます。
銘柄や通貨の選び方に活かす
ボラティリティは、自身の投資スタイルやリスク許容度に合った金融商品を選ぶ際にも役立ちます。
例えば、デイトレードなどで積極的にリターンを狙いたい場合は、ヒストリカルボラティリティを参照し、値動きの大きい高ボラティリティの銘柄や通貨ペアを中心に取引すると良いでしょう。一方、安定した資産形成を目指す場合は、値動きが比較的穏やかな低ボラティリティの銘柄や通貨ペアを選ぶほうが、精神的な負担も少なく運用を続けやすいと言えます。
相場イベントに備える
各国の金融政策を決める会合(米国のFOMCなど)や、重要な経済指標(米雇用統計など)の発表、企業の決算発表といったイベントの前後では、ボラティリティが急上昇する可能性があります。
相場イベントの日程と、その際に市場がどの程度動く可能性があるのかを事前に把握しておくことで、リスクへの備えができます。例えば、イベント前にポジションの量を減らしてリスクを抑えたり、逆に大きな値動きを狙って新規にポジションを建てたりといった判断が可能です。
また、事前に予想される値動きの幅を想定し、その範囲の外側に指値注文(利確)や逆指値注文(損切り)を設置しておくことで、計画的にトレードができるでしょう。
リスクを予測して資金管理に役立てる
ボラティリティは、投資資金の管理においても重要な役割を果たします。ボラティリティが高いほど、同じ量のポジション(建玉)を持っていても、損益の振れ幅は大きくなります。この関係を理解し、相場状況に合わせてポジションのサイズを調整することが、リスク管理においては大切です。
ボラティリティが高まっている局面では、ポジションサイズを通常より小さくすることで、万が一予測が外れた場合の損失拡大を防ぐことができます。逆に、ボラティリティが低い局面では、ポジションサイズを大きくしてリターンを狙う、といった柔軟な資金管理が可能です。
ボラティリティを理解して投資判断に役立てよう
ボラティリティは、単なる価格変動の大きさを示すだけでなく、市場のリスクやリターンの可能性を測るための重要な判断材料です。ボラティリティが高い局面と低い局面、それぞれの特徴を理解し、自身の投資スタイルに合わせた戦略を立てましょう。
ただし、ボラティリティが高い相場では大きな利益が狙える反面、損失を出すリスクも高くなります。投資初心者の方はテクニカル指標を活用しながら、リスクを抑えた取引を心がけましょう。
<監修者>
川口一晃
<プロフィール>
1986年銀行系証券会社に入社。銀行系投資顧問(現・三菱UFJ国際投信)や三洋投信で11年間ファンドマネージャーを務める。2004年10月に独立してオフィスKAZ代表取締役に就任。テレビ番組やラジオなどメディア出演は多数。現在、FMナック5「お金の世界の歩き方」でパーソナリティを務める。「SMAP×SMAP」では木村拓哉氏とも対談。著書も多数。また、テレビ朝日のドラマ「アイムホーム」をはじめ、フジテレビの月9のドラマの監修も担当。行動経済学学会会員。