空売りとは?意味や仕組み、メリットデメリットをわかりやすく解説

2025/9/1

株式投資に少しずつ慣れ、現物取引から一歩進んで「信用取引」に興味を持ち始めたとき、初めて「空売り」という言葉を目にした人もいるかもしれません。しかし、空売りが具体的に何を指すのか、どのような仕組みで利益が出るのかよく理解していない人も多いことでしょう。

本記事では、そんな空売りの意味や取引の仕組み、メリット、デメリットなどを初心者向けにわかりやすく解説します。

空売りとは?

空売りとは、株式を証券会社から借りて売却し、決済期日までに買い戻してその差益を得る投資手法です。手持ちの株式を売る「現物売り」に対して、手元にない株式を売ることから「空売り(からうり)」と呼ばれます。信用取引の一つなので、基本的には証券会社に一定の担保の預け入れが必要です。

安い価格で買い、高い価格で売ることで利益を目指す現物取引とは異なり、空売りは相場の下落局面でも利益を狙える一方、信用取引ならではのリスク管理が求められます。

空売りの仕組み

実際に空売りを始める前に、具体的な取引の流れや利益の考え方を理解しておきましょう。

株式投資における空売りの流れ

空売りは信用取引の仕組みを使って行います。基本的な流れは以下の通りです。

1.信用取引口座の開設

証券会社で信用取引口座を開設します。口座開設には一定の投資経験や資産などの審査があります。

2.委託保証金の預け入れ

取引の担保となる委託保証金を口座に入金します。現金だけでなく、保有している現物株式などを代用する(代用有価証券)ことも可能です。

3.新規売建注文

値下がりを予想する銘柄を選び、証券会社に「売建(うりたて)」の注文を出します。この注文を受け、証券会社は自社で保有する株式や、証券金融会社から調達した株式を投資家に貸し出します。

また、証券会社は投資家に株式を貸し出すと同時に、貸し出した株式を市場で売却します。この時の売却価格が「売り建値(うりたてね)」となり、売却で得た代金は、後に買い戻しの注文が約定するまで証券会社側で保管されます。

4.株式の返済(反対売買・現渡し)

投資家は、定められた返済期日(制度信用取引では原則6ヶ月)までに反対売買を行う必要があり、買い戻しの注文を出して取引を終了させます。

もし同じ銘柄の現物株を保有している場合は、それを証券会社に渡して返済する「現渡し」という方法も選択できます。

5.差額の受け取り(決済)

反対売買が成立すると、当初の売り建値と今回の買付価格との差額から、手数料や金利、貸株料などの諸経費を差し引いた金額が損益として確定します。

空売りによる利益の考え方

空売りでは、売却時の価格が高く、買い戻し時の価格が低いほど利益が大きくなります。

例えば、株価1,000円の銘柄を100株空売りし、その後株価が800円に値下がりした時点で買い戻したとします。この場合の利益の計算方法は以下の通り、20,000円となります(手数料・諸経費を考慮しない場合)。

  • 売却時の金額:1,000円 × 100株 = 100,000円
  • 買戻し時の金額:800円 × 100株 = 80,000円
  • 利益:100,000円 - 80,000円 = 20,000円

反対に、株価が想定に反して上昇すると損失が発生します。例えば、1,000円で空売りした株価が1,200円に値上がりした時点で買い戻すと、20,000円の損失となります。

株価が下落する場合は0円が下限ですが、上昇する場合は上限がありません。そのため、空売りの損失は理論上無限大になる可能性があります。

空売りによる利益の考え方

空売りのメリットとデメリット

空売りは投資戦略の幅を広げる有効な手段ですが、メリットとデメリットの両方を理解しておく必要があります。

メリット

株価が下落している局面でも利益を追求できる点が空売りのメリットです。通常の買いから入る取引では利益を出しにくい下降相場においても、有効な投資戦略となります。

また、長期的に保有したい銘柄が短期的な下落相場に見舞われた際に、同じ銘柄を空売りする「つなぎ売り」のように、リスクヘッジの手段としても活用可能です。つなぎ売りをした場合、現物株式の評価損を空売りの利益で相殺できるため、資産を手放すことなく下落局面を乗り切れる可能性があります。

さらに、空売りをはじめとする信用取引では、委託保証金の約3.3倍の金額まで取引ができるため、資金効率の高い取引が可能です。

デメリット

損失が理論上、無限大となる可能性がある点は空売りのデメリットです。株価は0円以下にはなりませんが、上昇する際の上限はないため、予想に反して株価が上がり続けると損失がどこまでも膨らむリスクがあります。

また、株式を借りるための「貸株料」や、株券の調達が困難になった場合に発生する「逆日歩」といったコストがかかることにも注意が必要です。

さらに「空売り規制」や証券会社ごとに行われる取引規制によって、空売りの機会が制限される場合もあります。空売り規制は株価の意図的な売り崩しなどを防ぐための取引所のルールで、株価が大きく下落した銘柄に対してこの規制が発動すると、一時的に新規の空売り注文を出すことができなくなります。

信用取引の金利・諸経費について教えてください。(Q&A)

空売りができる銘柄

空売りは利用する信用取引の種類によって対象となる銘柄が異なります。信用取引には、主に「制度信用取引」と「一般信用取引」の2種類があり、空売りできる銘柄の範囲だけでなく、返済期限や発生するコストに違いがあります。

制度信用取引の場合、空売りができるのは取引所が定める基準を満たした「貸借銘柄」のみです。返済期限が原則6ヶ月と定められており、コストとして貸株料のほかに、株券が不足すると「逆日歩」が発生する場合があります。

一方、一般信用取引では、各証券会社が独自に選定した銘柄を空売り可能です。返済期限は証券会社ごとに異なり、無期限で取引できる場合もあります。コスト面では逆日歩が発生しない代わりに、貸株料が制度信用取引よりも高めに設定されていることが一般的です。

松井証券では、原則返済期限がない「無期限信用取引」や、つなぎ売りなどに活用いただける返済期限を14日とする「短期信用取引」、手数料・金利・貸株料0円で取引可能なデイトレード専用の「一日信用取引」を提供しています。「一日信用取引」では、制度信用取引・無期限信用取引では空売りできない銘柄から、一日信用取引のみで売建てできる銘柄を提供する「プレミアム空売り」のサービスを提供しています。

空売りに関するよくある質問

空売りに関して、初心者の方が疑問を感じやすい点をQ&A形式でわかりやすく解説します。

空売りが株価に与える影響は?

空売りが増加すると、市場での売り圧力が高まり、一時的に株価が下落する要因になります。ただし、空売りした投資家は、いずれ必ず買い戻しの決済を行わなければなりません。

そのため、何かのきっかけで株価が上昇に転じると、空売りをしている投資家たちが損失を恐れて一斉に買い戻し注文を出し、株価の急騰(踏み上げ)を引き起こすことがあります。つまり、空売りの残高が多いということは、目先の売り圧力が強いという見方と同時に、将来的な買い戻しによる上昇エネルギーが蓄積されているという見方もできるのです。

このように、各銘柄の空売りの残高(信用売り残)は、相場の過熱感や将来の需給動向を測るセンチメント指標として活用される場合があります。

空売りは違法ですか?

証券取引所のルールに則って行われる適法な空売りは、違法ではありません。金融商品市場の公正な価格形成を目的とした、認められた取引手法です。

ただし、意図的に株価を引き下げる目的で行われる空売りなど、不公正な取引は金融商品取引法で禁止されています。また、価格形成に不当な影響を与えないよう、「空売り規制」というルールが定められており、これに違反した場合は法令違反となります。

機関投資家と個人投資家の空売りの違いは?

機関投資家と個人投資家では、空売りの戦略や市場への影響力に差があります。

機関投資家は、豊富な資金力と高度な情報分析力を背景に、大規模な空売り戦略をとりことがあります。ヘッジファンドなどが特定の企業の財務状況や将来性などを徹底的に分析し、株価が割高と考える銘柄について空売りを仕掛け、株価の下落による利益を狙うのです。機関投資家の空売り動向は注目度が高く、市場全体の流れに影響を与えることも少なくありません。

一方、個人投資家の空売りが市場に与える影響は限定的です。また、機関投資家のように豊富な資金や専門的な情報網を持っているわけではありません。そのため、予想に反して株価が上昇した場合、大きな含み損に耐えきれず、追証(追加の保証金)が発生するリスクがあります。

短期間で大きく資産を減らさないためにも、損切りのルールを決めて徹底する、取引の規模を自分の資金額に見合った範囲に抑えるといったリスク管理が必要です。

信用取引と比較した先物取引、FXの売建の特徴は?

株式の信用取引以外にも、「売り」から取引を始められる金融商品があります。価格が下がることで利益を得る点は共通していますが、取引方法やリスク、コストの構造が異なります。

信用取引と比較した先物取引の売建の特徴

先物取引は将来の特定の期日に、あらかじめ決めた価格で売買することを約束する取引で、日経平均株価などの株価指数や、金・原油といった商品を対象としています。

先物取引の売建は、証券会社から株を借りる信用取引とは異なり貸株料や逆日歩といったコストは発生しません。また、証拠金を担保に取引を行うため、少ない資金で大きなポジションを持つことができ、売建でもレバレッジを活用できます。

さらに、株式の信用取引に見られるような、空売りができる銘柄や空売り規制(空売り価格規制)などの制約も少ないため、より柔軟な取引ができる点も特徴です。

先物取引では、現物の株式を伴わずに指数や商品を対象とした取引が可能です。そのため、仮に日本の株式市場全体が下落すると予想した場合、日経平均株価などの指数先物を売り建てておくと、実際に市場全体が下落した際に利益が出ます。

この利益によって、手元で保有しているさまざまな株式の値下がりによる損失を和らげることができます。ただし、先物取引には取引期限(限月)があるため、期日までに反対売買による決済が必要な点は注意しましょう。

信用取引と比較したFXの売建の特徴

FX(外国為替証拠金取引)は、円やドルといった異なる2国間の通貨を売買し、為替レートの変動による差益を狙う金融商品です。価格変動による損益だけをやり取りする「差金決済取引」であるため、実際に外貨を保有していなくても取引が可能です。

FXでは、通貨を売る「ショートポジション」を持つことで、為替レートの下落局面で利益を狙えます。個人口座では最大25倍の高いレバレッジを効かせることで、少ない資金で大きな金額の取引を行うことができます。

また株式の信用取引と異なり、基本的に平日はほぼ一日中取引が可能で、ポジションを保有する期限もありません。

信用取引のように取引時の手数料は多くのFX会社ではかかりませんが、売値と買値の差である「スプレッド」が実質的な取引コストとなります。

また、売建(ショート)の場合は「スワップポイント」の支払いが発生することがあります。スワップポイントとは2国間の金利差調整分のことです。高金利通貨を売って低金利通貨を買うポジションを持つと、その金利差分のコストを毎日支払う必要があります。

空売りを活用して投資戦略の幅を広げよう

空売りは、株式を保有せずに売りから入ることで、株価が下落する局面でも利益を追求できる投資手法です。現物株式の値下がりリスクを回避する「つなぎ売り」にも活用できるため、投資戦略の選択肢を増やせます。

一方で、株価が急騰した場合には損失が急拡大無限大になるリスクがあり、金利や貸株料などのコストも発生します。また、空売り規制のようなルールも存在するため、リスク管理が不可欠です。

株式投資の初心者の方は、まずは少額から試すか、仕組みを十分に学習したうえで慎重に始めるようにしましょう。

オンラインで最短即日、
無料で口座開設

オンラインで申し込みが完結。署名・捺印・書類の郵送は不要です