信用取引を使った裁定取引(アービトラージ)
次にご紹介するのは、株価と理論価格のズレに着目し、信用取引を利用し、ローリスクで利ざやを稼ぐ裁定取引という手法です。株式市場はいろいろな投資主体の需要と供給がぶつかり合うところです。そこでは一時的な需給の不均衡により、市場価格が理論価格から離れることがあります。いずれは理論価格に収束すると考えられますが、この一時的な価格のズレを収益チャンスと捉えるのが、裁定取引つまり「鞘取り」と呼ばれる手法です。主に、証券会社の自己売買などで盛んに行われている取引ですが、今はインターネット取引の安い手数料によって個人投資家も裁定取引の鞘取りに参加する道が開けたといえます。ただ、個々の株価について理論価格を算出する方法は多岐にわたります。ここでは比較的わかり易く、現実に裁定機会が多いといわれる、合併時の理論価格のズレを例にとります。
図は、A社とB社が3か月後に対等合併会社Z社になると発表した場合の裁定取引の事例です。まず、対等合併は、株式の交換比率が1:1であり、どちらが存続会社になるにせよ、両社の理論上の株価は同一でなければなりません。しかし、合併発表後のA社の株価が1,050円でB社の株価が1,070円といったように開きがあった場合、そこに裁定取引のチャンスが生まれてきます。具体的には、割安なA社株を信用取引で買建て、割高なB社株を1,070円で売建てることにより、裁定利益を得ることができます。
裁定取引の鉄則は「割安なものを買い、割高なものを売る」です。
さて、この取引の結果、3か月後の損益が現時点で確定することを、図の簡単な計算式で見てみましょう。ここではZ社の3か月後の株価をZ円としています。まず、計算式の最初の括弧(Z円-1,050円)は信用買いしたA社株を3か月後に反対売買した場合の損益をあらわしています。Z円が売り値、1,050円は信用買いした時の建値ということになります。次の括弧(1,070円-Z円)は信用売りしたB社株を3か月後に反対売買した場合の損益をあらわしています。1,070円は信用売りした時の建値、Z円が買い戻し価格ということになります。しかし、3か月後のZ社の株価は同一なのでこの部分が相殺されます。したがって20円という裁定利益が導かれるわけです。
- 手数料、金利、逆日歩などの諸経費は別途かかります。
ここでポイントとなるのは、1,050円、1,070円というA社株とB社株の価格、そして3か月後にZ社として同一の株価になることが、裁定取引の時点で全て確定していることです。つまり、裁定取引とは理論上はリスクなしで、利益を確定することができる取引ということになります。また、3か月経たないうちに、A社とB社の株価が理論どおり収束された場合には、反対売買により裁定利益を得ることができます。
また、無期限信用取引を使った場合は、原則、反対売買の期間が限定されない(※)ため、利益確定のタイミングの幅が広がります。
- 上場廃止、合併、株式併合、株式分割等の事象が発生した場合や、当社の与信管理の都合上、あるいは株式の調達が困難となった場合等において、返済期限が設定されることがあります。