特定口座とは?一般口座との違いやメリットデメリット、確定申告についてわかりやすく解説
特定口座とは、株や投資信託で得た利益にかかる税金の計算や納税手続きを証券会社が代わりに行ってくれる口座のことです。投資の利益には原則として確定申告が必要ですが、特定口座を利用すればその手続きを簡略化できます。
本記事では、これから投資を始める方に向けて、特定口座の基本的な仕組みや一般口座・NISA口座との違い、特定口座のメリット・デメリットなどを解説します。
特定口座とは?
特定口座とは、証券会社で国内株式や外国株式、投資信託などを管理するための口座の一種です。投資家の納税に関する事務負担を軽くする目的で2003年から導入されました。
特定口座を利用すると、投資家本人に代わって証券会社が上場株式等の譲渡にかかる損益を計算し、「特定口座年間取引報告書」を作成・交付するため、確定申告の手続きの負担が大幅に軽くなります。報告書には1年間の取引金額や損益、源泉徴収税額などが記載されています。
特定口座は、納税方法によって以下の2種類に分けられます。
- 源泉徴収ありの口座
- 源泉徴収なしの口座
「源泉徴収あり」を選ぶと、利益が確定するたびに証券会社が税金を計算して徴収し、代わりに納税まで行ってくれます。一方、「源泉徴収なし」を選んだ場合、損益計算は証券会社が行いますが、源泉徴収はされないため投資家自身で納税する必要があります。
特定口座と一般口座、NISA口座との違い
証券会社で開設できる口座には「特定口座」のほかに「一般口座」と「NISA口座」があります。特定口座は証券会社が損益を計算してくれるため確定申告が簡単になるのが特徴ですが、それ以外の口座とは仕組みが大きく異なります。
一般口座は「年間取引報告書」が発行されないため、投資家自身が1年間の全取引を記録・計算し、確定申告を行う必要があります。確定申告の負担が大きい点が、特定口座との大きな違いです。
一方、NISA口座は年間の投資上限額の範囲内で得た利益が非課税になるのが最大の特徴です。通常は20.315%課税される譲渡益や配当も非課税となりますが、損益通算や繰越控除は利用できません。この点で、課税対象となる特定口座や一般口座とは性質が異なります。2024年から始まった新NISA制度では、年間の非課税投資枠が大幅に拡大され、成長投資枠は年間360万円まで、つみたて投資枠は年間120万円まで投資できるようになりました。投資金額に合わせて、特定口座、一般口座、NISA口座を使い分けることも考えましょう。
特定口座は確定申告が不要?
「源泉徴収あり」の特定口座を選んだ場合は、株式等を売却して利益が出たり、配当金や分配金を受け取ったりするたびに、自動で税金を計算し、源泉徴収・還付をしてくれるため、原則確定申告は不要です。
一方「源泉徴収なし」の特定口座を選んだ場合は、投資家自身による確定申告が必要で、証券会社が発行する「特定口座年間取引報告書」をもとに税額を計算し、納税手続きを行う必要があります。
ただし「源泉徴収あり」の特定口座を利用している場合でも、一般口座や複数の証券口座で取引を行っている場合など確定申告をした方が有利になるケースがあります。
例として、A証券の特定口座(源泉徴収あり)で50万円の利益、B証券の一般口座で20万円の損失が出たとします。確定申告をしなければA証券の利益50万円に対して既に源泉徴収された状態となりますが、確定申告で損益通算をすれば全体の利益は30万円(50万円−20万円)となり、A証券で取引した20万円の利益に対する課税額約4万円が還付されます。
特定口座「源泉徴収あり」でも、確定申告をしたほうが有利になるのは、どのような時ですか。(Q&A)
さらに、年間の取引全体で損失が出た場合には、確定申告を行うことで繰越控除の適用を受けられます。繰越控除は、発生した損失を翌年以降最大3年間にわたって繰り越し、将来の利益と相殺できる制度です。繰越控除の適用を継続して受けるためには、損失が出た年だけでなく、取引がない年も含めて毎年確定申告をする必要があります。なお、特定口座の源泉徴収区分にかかわらず、特定口座と一般口座の取引は、損益通算が可能です。
特定口座のメリットとデメリット
特定口座は「源泉徴収あり」と「源泉徴収なし」のどちらを選ぶかによっても利便性が異なります。
| メリット | デメリット | |
|---|---|---|
| 源泉徴収あり | ・確定申告が原則不要で手続きが簡単 ・損益計算などを証券会社が代行し、自動で税金の処理がされるため手間がかからない |
・利益が20万円以下でも自動で源泉徴収され、還付には申告が必要 ・損益通算や損失繰越を希望する場合は確定申告が必要 |
| 源泉徴収なし | ・給与以外の所得(利益)が20万円以下の場合は確定申告不要であり源泉徴収されない ・損益通算や損失繰越を活用できる |
・税額計算や確定申告を自力で行う必要があり、管理負担が大きい |
特定口座のメリット
源泉徴収あり
「源泉徴収あり」の特定口座のメリットとして、税金に関する手続きの手間が大幅に軽減される点が挙げられます。利益が出るたびに自動で税金が差し引かれ、証券会社が納税まで代行してくれるため、原則として確定申告の必要がありません。
本業が忙しい会社員の方や、確定申告に不慣れな投資初心者の方でも、納税漏れの心配がなく安心して資産運用を始められます。
源泉徴収なし
「源泉徴収なし」の特定口座には、利益が少額の場合は税負担がなくなる場合があるというメリットがあります。会社員などの給与所得者で、年間の譲渡益などの所得が20万円以下の場合、所得税の確定申告は必要ありません。「源泉徴収あり」の場合は利益が20万円以下でも自動的に課税されますが、「源泉徴収なし」であれば、20万円以下の利益については非課税です(住民税は別途申告が必要)。
税金の支払いタイミングを自分で管理できるため、資金効率が高まるというメリットもあります。「源泉徴収あり」では利益が出るたびに都度税金が差し引かれますが、「源泉徴収なし」では納税を翌年の確定申告時まで先送りできます。本来、税金として納めるべき資金を納税時期まで手元に置き、投資に活用できるため、投資元本を大きく保ちながら運用を続けられるのです。
また、確定申告を自分で行うことで、損益通算や繰越控除といった制度を積極的に活用しやすくなる点もメリットとして挙げられるでしょう。
特定口座のデメリット
源泉徴収あり
「源泉徴収あり」の特定口座では、利益が少額でも源泉徴収される点がデメリットとして挙げられます。例えば、年間の利益が20万円を下回る会社員の場合、本来であれば所得税の確定申告は不要です。しかし、「源泉徴収あり」の口座では利益に対して自動的に課税されます。
徴収された税金を取り戻すためには、確定申告(還付申告)の手続きを自分で行わなければなりません。また、損益通算や繰越控除を利用したい場合も、結局は確定申告が必要になります。
源泉徴収なし
「「源泉徴収なし」の特定口座のデメリットは、確定申告の手間がかかる点です。金融機関が発行する「特定口座年間取引報告書」をもとに、自分で確定申告書を作成し、納税まで済ませる必要があります。
もし申告を忘れたり、計算内容に誤りがあったりすると、本来納めるべき税額に加えて加算税や延滞税といったペナルティが課されるリスクがあります。
特定口座と一般口座はどんな人におすすめ?
特定口座と一般口座の特徴の違いを踏まえ、それぞれどのような人におすすめなのかを整理します。
特定口座がおすすめの人の特徴
確定申告の負担をできるだけ軽くしたい投資初心者の方や、仕事が忙しい会社員の方、元々確定申告を行う予定が無い方には、特定口座が向いています。
特に、少額から投資を始めたい方や、まずは気軽に資産運用を体験してみたいという方には、「源泉徴収あり」の特定口座が便利です。税金のことを気にせず、安心して取引を始められるでしょう。
一方で、年間の利益を20万円以下に抑えられそうな方や、複数の口座を管理して積極的に損益通算や繰越控除を活用したい投資経験者の方は、源泉徴収なしの特定口座も選択肢になります。
一般口座がおすすめの人の特徴
確定申告の手続きに慣れており、損益計算や税務処理を正確に行う自信のある投資の中・上級者の方は、一般口座の利用を検討しても良いでしょう。
外国株式でコーポレートアクションにより株式が付与される場合やなど特定口座では取り扱いができない投資商品に投資する場合には、一般口座を利用する必要があります。また、FXや先物オプション取引には特定口座のような源泉徴収の制度が無いため、自身での確定申告が必要になることがあります。
投資初心者は特定口座の開設から始めよう
特定口座は、確定申告の負担を軽くしてくれる便利な仕組みです。「源泉徴収あり」の特定口座を選べば、原則として確定申告が不要になり、納税の手間を気にせず投資に集中できます。これから投資を始める方は、まず「特定口座(源泉徴収あり)」の口座開設を検討するのが良いでしょう。
投資に慣れてきて、損益通算・繰越控除を活用したくなったタイミングで「特定口座(源泉徴収なし)」や一般口座への変更を検討するのがおすすめです。